この時期の英国製スポーツカーの世界観を明快かつ魅力的に示す1台
今回ご登場いただいた真紅のEタイプは、1964年式。つまり3.8L時代のシリーズ1最終型で、ボディタイプはオープンモデルの「OTS(Open Two Seater)」である。
この時期のシリーズ1は「フラットフロア」と呼ばれる最初期型よりもダッシュボード下の床を一段低めたことで、足もとのスペースが若干広められているのが特徴。またEタイプではこの個体を含めて左ハンドル仕様が多いのは、当時の英国政府の輸出重視政策にのっとり、その大部分がアメリカなどの右側通行国に輸出させるためにつくられたからである。
だからこのEタイプOTSは新車さながら、あるいはそれ以上に美しいかに映るコンディションも相まって、この時代の英国製スポーツカーがもたらした世界観を、ある意味もっとも明快かつ魅力的に示してくれる1台ともいえるだろう。
高くて深いサイドシルをまたいでキャビンに収まってみると、最初に意識するのはスパルタンな掛け心地のシート。4.2L時代になると、四角いシートバックに厚めのクッションを組み合わせた、やや平板な革張りシートに変更されるのだが、この時代は美しい「おむすび」型シートバック形状で、クッションが薄いバケットタイプが選ばれていた。
そしてイグニッションキーを回して、チョークレバーを下方にスライドする。整備が行き届いているせいか、スターターボタンを押すと名機XK型直列6気筒DOHC・3781ccエンジンは即座に始動し、早々にチョークを戻しても安定したアイドリングを続ける。
カッコだけではない、本質からして優れたスーパースポーツ
3.8L時代のEタイプには、XK120~150ゆずりの英国MOSS社製4速トランスミッションが組み合わされる。発進後にノンシンクロ+ストレートカットの1速で引っ張ると、「フェーンッ」という擬音で表記したくなるような、独特のギヤノイズが聴こえてくる。
でもそのあと2速、3速とシフトアップしていくとギヤノイズは霧消し、以前乗ったことのある4.2L版のSr.1よりも明らかにスムーズなエンジンフィールが感じられるようになってくる。3.8LのXKユニットは「ヴォォォーンッ!」という張りのあるバリトンを朗々と聴かせながら、心地よいシルキーな吹け上がりで、トルクフルにスピードを上げていくのだ。
そして、カーブの続く道に差しかかると、Eタイプが単なるGTではないことも解ってくる。早め早めのステアリング操作を心がけると、意外なくらいクイックにノーズが切り込んでくれる。もちろん、空力効率のためトレッドが狭い独特のプロポーションゆえに、横方向のグリップは充分とはいえないながらも、コーナー手前で充分に減速し、スロットルコントロールも丁寧に行うことで、スポーツカーらしいコーナーワークが楽しめる。
さらに特筆すべきは、乗り心地の良さである。路面の荒れた一般道でも不快な突き上げなどは最小限で、ジャガーの代名詞「ネコ脚」って、きっとこんなものだったんだろうな……と実感することになったのだ。
見た目も走りも、ヒロイックなカッコよさが横溢しているジャガーEタイプは、1960年代ポップカルチャーのアイコンともなった。それは、スタイリングだけには留まらない「よくできたスポーツカー」あるいは「魅力的な自動車」であることも大きな要因といわねばなるまい。
今回はそんな当たり前のことを、あらためて再確認するテストドライブとなったのである。
■車両協力
ヴィンテージ湘南
http://www.vintage-shonan.co.jp
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