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筑波最速更新! 日産「GT-R NISMO」MY24が「59秒078」の量産車最速タイムを叩き出した裏側を全部見せます

筑波最速記念撮影

今回の量産車筑波サーキット・チャレンジに参加した日産自動車/住友ゴム工業・ダンロップタイヤスタッフとの記念撮影。記録更新に皆笑顔がはじけた。このタイムが筑波サーキットにおけるR35GT-Rのベンチマークとなっていく

市販車で58秒に迫るタイムを記録!

2024年1月10日、日産「GT-R NISMO」の2024年モデル(以下、MY24)が、4年前に2020年モデル(以下、MY20)で記録した筑波サーキット量産車最速タイムを更新しました。そのタイムは59秒078。1分切りが指標となる筑波で、フルノーマルの量産車で58秒台に迫ったのは驚異に値します。では、どのようにタイムを削り取ったのか? 再び金字塔を打ち立てたGT-R NISMOの速さの秘密を明らかにしましょう。

(初出:GT-R Magazine Vol.175)

自ら出したタイムの更新に挑戦

水野和敏氏がオールインワンの発想で開発したR35GT‒Rを、田村宏志氏が「GT」と「R」で異なる味付けを施し、がらりと方向性を転換してから11年が経過。開発責任者のバトンは川口隆志氏へ引き継がれたが、キャラクターの違いを明確に分ける考えは変わっていない。

グランドツーリング領域を受け持つ標準車は2021年に設定したTスペックの登場により、ロードカーとして欧州のプレミアムスポーツに肉薄するジェントルさを手にしたと高く評価された。

一方レーシング領域を受け持つNISMOの評価はどうだろうか。Tスペックを含む標準車なら進化を世界観で語ることも許されるが、NISMOは「速さ」という数字でそれを示さなくてはならない。なんといっても世界のスーパースポーツと対峙する国産最高性能車なのだから。

加えてMY24はエアロパーツを刷新し、トラクション性能向上のためにフロントLSDを標準装着。それにともない、アテーサE‒TSのプログラムも変更するなど、性能を磨き上げたとアナウンスされた。その効果はどうなのか? 新型モデルが出るたびに速さをキーワードとした話題に溢れるのはNISMOの宿命だ。

そんなMY24の卒業試験というべきタイムアタックが、2024年1月9日、10日の2日間にかけて茨城県・筑波サーキットで開催された。

筑波サーキットが選ばれたのはベンチマークとなる数字がしっかり残されていることが一番だ。ちなみにこれまでの量産車最速タイムは、2019年12月にGT‒R NISMO MY20が記録した59秒361。進化を実証するだけでなく、自らのタイムを塗り替えるためのチャレンジである。

オーナーが再現可能な、純正部品の範囲内でのアライメント調整とタイヤの空気圧の変更のみという、完全ノーマル車でチャレンジするという条件も同じ。

当日は量産車最速記録を達成したときとほぼ同じ開発メンバーが集結。筑波サーキットでタイムを削り取るノウハウを知るだけに心強い。また、ダンロップタイヤも万全のサポートを整えた。言い訳できない体制にドライバーの松田次生選手の重圧は相当なものだったと思う。

結果から言えば、残り1セットのタイヤで前回のタイムをコンマ283秒上まわる「59秒078」のスーパーラップを記録。目標としていた58秒台にはわずかに届かなかったものの、最高の結果を松田選手が腕でもぎ取った。まさにトップドライバーの面目躍如といったところ。

コンマ283秒と聞くとほんのわずかに感じるが、筑波サーキットではR35の全長の約2台分となる約9.8mの差がある。肉眼でもかなり開きがある距離だ。

フロントLSDが速さに貢献! 59秒2をコンスタントに記録

では、GT‒R NISMO MY24の伸びしろはどこにあったか? そして記録更新できた理由を探っていきたい。

まずはタイム。今回は2日間で12回タイムアタックした。数字を見るとすべてのタイムが59秒前半から中盤でまとまっている。

2019年シーズンのタイムアタックでは、最初は1分をなかなか切れず、セットアップが決まっても59秒後半がいっぱいだった。だが、今回は59秒2という高いレベルで、よりコンスタントにタイムを揃えられている。路面や気温などの条件を加味してもMY24のほうが安定して速いことがわかる。

次に、MY20に対して、どこでタイムを削ることができたのか? 松田次生選手に尋ねると、

「GT‒Rは基本特性として曲がりにくいので、速く走らせるには、とにかく曲げる動作が必要になってきます。とくに路面/気温が低いときはストレートでフロントタイヤが冷えてしまい、アンダーを誘発します。そのため、抵抗を与えて発熱させるため、前後ともややトーアウトにセット。キャンバーは純正で調整できる限度の2度2分に設定しました。今回もいろいろと試しましたが、結局はMY20と同じ数値に落ち着きました」

次に車両の進化。MY20と比べて違いはどこにあったのだろうか?

「ターンインまでの印象にさほど変わりはないのですが、そこから先は機械式LSDの効果で前へ前へと引っ張ってくれるのがポイントですね。1コーナー/第2ヘアピン/最終コーナーなどでその効果を感じます。とくに最終コーナーは前回4速で抜けていましたが、今回は4速ではアンダーが少し強めに出たので、3速でフロントに積極的にトラクションを掛けるほうが速く走れています」

エアロパーツについてはどうか?

「形状の変更で確実にダウンフォース量は増えています。とくにリアの安定感は増しました。こうしたミニサーキットよりも富士や鈴鹿などのハイスピードコースでは、より明確な差となって現れると思います。バランスについては少しリア寄りになり、これまでとは乗り方を変える必要がありました。これは車高の調整等でバランスを取れば、より性能を活かせると思いますので、チューニングされる方はぜひ試してほしいです」

最高速についてはMY20/MY24ともに205km/hと同じ。タイヤのスペックにも変化がないので、コーナーの立ち上がりでトラクションを稼ぎ、タイムを削り取ったのが記録更新の理由だろう。

「タイヤについては指定空気圧のままでも腕に覚えがある人であれば、同一条件なら1分切りは可能だと思います。そこから、さらにタイムを詰めるには気温と路面温度に合わせた空気圧の調整が必要です。ただ、冷えているときはアンダーが強いセットでも、温度が上がってくると前後のバランスがよくなり、曲がりやすくなりますので、そのあたりにも注意してセットアップしてほしいですね」

今回のタイムアタックを総評してR35開発責任者である川口氏は、

「社内のシミュレーションではMY24の伸びしろはコンマ3秒という数値が出ていました。とはいえ、普通は想定通りとなることのほうが少ないのですが、開発メンバーが松田さんに合わせたセットを導き出し、最後にミスなく揃えた。結果は素直にうれしいですね。ただ、こうした極限の走りで見えてくるものがあり、今回も多くの宿題をいただきました。それがクルマ作りの面白さであり、さらなるモチベーションに繋がります。許されるならGT‒Rという最高の素材を磨き続けたい。あらためてそう思いました」

挑戦をし続ける、タイムアタックを通じて進化(深化)を証明する。今を超えるための開発はもう始まっている!

(この記事は2024年2月1日発売のGT-R Magazine 175号に掲載した記事を元に再編集しています)

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