オシャレは正義?
2020年代、新型コロナ禍以降の国際マーケットの趨勢を見ていると、ボディや内装のカラーがクラシックカーの市場価値に及ぼす影響力が、格段に強くなったようにも感じられます。以前はあまり語られる機会のなかった「カラースキーム」や「リバリー」なる言葉が、近ごろでは自動車メディアでも頻繁に使われるようになったとともに、これまで定番ではなかったような洒落たカラーコーディネイトのクルマには、かなりの高値がつく事例も多くなっています。今回AMWでは、2024年3月1日にRMサザビーズ北米本社が、フロリダ州マイアミ近郊の町、コーラルゲーブルズにある歴史的なビルトモア・ホテルを会場として開催した「MIAMI 2024」オークションに、レアなカラーコーデのポルシェ911カレラ・カブリオレが出品されたことに注目。そのモデル概要と、オークション結果についてお伝えします。
長い沈黙を破り、ポルシェ911に復活したカブリオレ
ポルシェの開祖「356」では「カブリオレ」や「スピードスター」など複数のオープンモデルが設定されていたが、その後の911におけるオープンボディは、大型のロールバーとラップラウンド式リアウインドウ(最初期のみはソフトなビニール製)を持つ「タルガ」に長らく限定されていた。
しかしデビューから約20年の時を経て、テクノロジーの進歩によりフルオープン・ボディでもポルシェ技術陣の要求する剛性や安全性が確保できる、と判定された1982年秋。1983年モデルの「911SC」から、356の生産中止以来18年ぶりとなるポルシェのカブリオレが復活することになった。
また、カブリオレ発表ののちも従来のタルガは併売され、現在に至るまで歴代911シリーズの重要なバリエーションモデルとなっている。
いっぽう、911SCカブリオレのデビューから間もない1984年のフランクフルト・ショーにて、911シリーズの自然吸気モデルは「911カレラ」へと進化を果たす。
911の象徴である空冷フラット6エンジンは、SC時代の2994ccから3164ccに拡大。231ps/5900rpm(DIN)の最高出力と、28.6kgm/4800rpmの最大トルクを獲得した。
くわえて1987年モデル以降は、ポルシェシンクロの「915」型変速機に代えて、ボルグワーナー式シンクロを持つゲトラク社製「G50」型5速マニュアル式トランスアクスルが組み合わされている。
そして、新生カブリオレを含む911カレラは、1989年をもって964系に移行するまで、日本を含む世界各国で大きなヒットを博したのだ。
オシャレなカラーにも条件がある?
この1988年式ポルシェ911カレラ・カブリオレは、希少なファクトリーカラーである「グラニットグリーンメタリック(L699)」で仕上げられた1台。美しくコーディネートされたインテリアには「リネン」の本革レザーが使用され、ダークグリーンのダッシュボードがエクステリアを引き立てる。また、特注の「グレー・グリーン(F3V7)」のファブリック製ソフトトップとトノーカバーが、洒脱なカラーを引き締めている。
もともとはメリーランド州ロックヴィルに納車され、新車からのオーナーはわずか2人。保存状態は素晴らしいレベルにあり、カタログ掲載時の走行距離は3万100マイル強(約4万9000km)で、2022年6月に現オーナーが初代オーナーから譲り受けたのちには、ほとんど運転されていないという。
この911カレラ・カブリオレは、非常にオリジナリティが高いと理解されており、さらにエアコン、パワーウインドウ、ヒーター付きパワーアジャスタブルミラー、一体型フォグランプなど911カレラ時代の主要装備が完全に残されている。
さらにスポーツダンパーにストローク短縮型のシフトレバー、16インチの鍛造フックス製ホイール、電動ソフトトップ、クルーズコントロール、ブラウプンクト社製ラジオカセットシステムなど、愛好家の間では望ましいとされる純正オプションが工場出荷時から装備されているのも重要なトピックだろう。
車両に添付されるヒストリーファイルには、1988年まで遡る正規ディーラーからのオリジナルの購入書類とサービス請求書が含まれており、2000年代に「ロックヴィル・ポルシェ・アウディ」社にて定期的に整備され、2003年にはメリーランド州のボディショップで左フロントフェンダーの小さなダメージが修理されたとのこと。最近では、2020年にバッテリーの交換と計器の修理、2021年にオイルラインとタイヤの交換が行われたことなどが仔細に記されている。
1980年代の930系911のなかでも、カブリオレは比較的安価な価格で流通しているのが通例ながら、ことアメリカではオープンモデルの人気が高く、しかもここは陽光溢れるフロリダである。
それでもRMサザビーズ北米本社が、現オーナーとの協議の結果として設定した7万5000ドル~9万5000ドルというエスティメート(推定落札価格)は、一般的には5~6万ドルの流通の多い930カブリオレとしては、なかなか強気なものにも見えた。
ところが、実際のオークションではビッド(入札)が順調に伸び、終わってみれば8万9600ドル、日本円に換算すると約1360万円という高値で落札されたのは、2オーナーであることに代表される来歴やコンディションもさることながら、このシックきわまるカラースキームの影響も小さくないと思われる。
とはいえ、たとえオシャレなカラーリングであろうとも、市井のボディショップが独自に施した、ポルシェのイメージからかけ離れたセンスのカラーでは市場を動かすには至らない。
もっとも望ましいのは、メーカーが新車時代から設定していた純正のオプションカラーであること。もしそうでないとしても、かつて純正(ないしはオプション)指定されたことのあるカラーで、正しくペイントされていることが高値の条件となる。
今回のハンマープライスは、そんな実情を証明した結果であろう。