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「ドイツ2000kmラリー」に1937年式オペル「オリンピア」で参加! 旧東ドイツでは有名人になった気分を体験しました【クルマ昔噺】

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TEXT: 中村孝仁(NAKAMURA Takahito)  PHOTO: 中村孝仁(NAKAMURA Takahiro)

キーを捻っただけでエンジンはかからない!?

翌朝7時。参加車両を停めてある街の広場に出てみると、すでに参加者たちは準備を始めていた。何しろ、キーを捻ってすぐ発車オーライなどというクルマはほとんどない。なかにはその日の気温に合わせて、自らエアと燃料のミクスチャーを決めてやるようなクルマさえある。我々も、オペルのメカニックからコクピット・ドリルを受ける。運転そのものは、現代のクルマと変わらず、その点では安心したが、ノンシンクロの4速マニュアルはダブルクラッチを踏む必要があるし、そもそもキーを捻っただけでエンジンはかからない。セルモーターを起動させるには、床のスイッチを踏みつけながら、アクセルを煽ってやるのだ。まさかスターターが床についているとはお釈迦様でも気づくまい。

ありがたかったのは賞典外という気楽さに加えて、地図を見なくても前をオペルのメンバーが走ってくれるからコースを外れる心配もないということで、残ったのは楽しさだけ。そしてその後の道中で個人的にはかつてない、芸能人にでもなったかのような気分を味わうことになった。

というのも、各チェックポイントではいろいろとお土産はもらえるし、サイン攻め、写真撮影攻めときた。当時は東西が統合されて10年と経っていない頃、まだ東ドイツにはそれほどの娯楽はなかったのだと思う。そんなわけで行程のほぼすべてが旧東ドイツ側だった我々は行く先々でとんでもない歓迎を受けたのである。

なかにはわざわざ駆け寄ってきて、「このクルマで俺は免許を取ったんだよ」と懐かしむように話してくれる男性もいた。なんでも彼によればこのクルマは「Laubfrosch(日本ではアマガエル)」というニックネームを持っていたと教えてくれた。調べてみるとそう呼ばれていたのはもっと前のオペルのようであったが、彼にとってはすでに思い出の中のクルマなのだろう。だからそう呼んでいたのかもしれない。

前半のパートで結構なトラブルに見舞われたと聞いていたので、その点が心配であったが、我々のドライブが優しかったようで、ゴールのベルリンにノートラブルで辿り着くことができた。私自身は1970年代にまだドイツが西と東に別れていた頃に2年ほどドイツに住んでいたが、当時東ドイツに行くなんてとんでもないこと。だから、ベルリンにも行ったことがなかった。

まだ部分的に壁の残っていたベルリンは戦争の爪痕も感じられたが、人々は明るく平和を満喫しているように見えた。結局その当時すでに61歳という車齢だったオペル オリンピアは、何事もなかったかのように2800kmを走り切った。我々のパートだけでも1345kmあった。全然2000kmどころではなかったわけである。

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  • 中村孝仁(NAKAMURA Takahito)
  • 中村孝仁(NAKAMURA Takahito)
  • 幼いころからクルマに興味を持ち、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾る。 大学在学中からレースに携わり、ノバエンジニアリングの見習いメカニックとして働き、現在はレジェンドドライバーとなった桑島正美選手を担当。同時にスーパーカーブーム前夜の並行輸入業者でフェラーリ、ランボルギーニなどのスーパーカーに触れる。新車のディーノ246GTやフェラーリ365GTC4、あるいはマセラティ・ギブリなどの試乗体験は大きな財産。その後渡独。ジャーナリスト活動はドイツ在留時代の1977年に、フランクフルトモーターショーの取材をしたのが始まり。1978年帰国。当初よりフリーランスのモータージャーナリストとして活動し、すでに45年の活動歴を持つ。著書に三栄書房、カースタイリング編集室刊「世界の自動車博物館」シリーズがある。 現在AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)及び自動車技術会のメンバーとして、雑誌、ネットメディアなどで執筆する傍ら、東京モーターショーガイドツアーなどで、一般向けの講習活動に従事する。このほか、テレビ東京の番組「開運なんでも鑑定団」で自動車関連出品の鑑定士としても活躍中である。また、ジャーナリスト活動の経験を活かし、安全運転マナーの向上を促進するため、株式会社ショーファーデプトを設立。主として事業者や特にマナーを重視する運転者に対する講習も行っている。
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