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世界に1台のフォード「サンダーバード」が6900万円で落札! のショーカー「イタリアン」が生まれた時代的背景とは?

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: 2023 Courtesy of RM Sotheby's

奇跡的に遺されたショーカーとしてはリーズナブルな6900万円で落札

「カスタムキャラバン」ツアーと広報活動を終えたのち、サンダーバード イタリアンは解体される運命にあり、フォードのリリースにもそのように記載されていたという。

ところが、自身の作品を大切にし、確実に存続させるためにあらゆる努力を払うことで知られていたヴィンス・ガードナーの尽力により、いったんはDSTに戻されたのち、当時『ウェルズ・ファーゴ物語』などで人気を博していた西部劇スター、デール・ロバートソンに引き取られることになった。

ロバートソンは1965年まで南カリフォルニアでイタリアンを愛用したあと、庭師のウィリアム・ワーナーに譲り、1974年にはジョー・ナヴァロがオーナーとなる。ナヴァロはこのクルマをより繊細なダークブルーに磨き直し、ロサンゼルスで何年ものあいだ日常的な足として愛用したといわれている。

そして1989年、このイタリアンの存在を知り、何年も追いかけていたドン・チェンバースから、ナヴァロは売却するよう説得されることになる。チェンバースは当初、別のサンダーバードとの交換を持ちかけたという伝説があるが、ナヴァロはけっきょく現金を受け取ったといわれている。

しかし、苦労の末に手に入れたはずのチェンバースは、残念ながらこのワンオフ車のレストアには手をつけず、16年間イタリアンを保管したあと、2005年に愛好家のトム・マルスカに売却した。

この時点で、サンダーバード イタリアンにはかなり風化の痕跡が見られたものの、マルスカはボンネットのリップモール以外に完全なレストアを施し、オリジナルを巧みに再現することにした。インテリアはオリジナルと同様の素材とパターンで適切に修復され、メタルトリムは新品同様に修復。メタルトリムにはエンジンターンド仕上げが再び施され、ボディは正しい「ディープ・キャンディアップル・レッド」で塗り直された。

レストアが完了してから数カ月後の2008年1月、このイタリアンは世界最高峰のミュージアム「ブラックホーク・コレクション」に売却され、それ以来は彼らのプライベート・コレクションとして保存。2010年代にはディスカバリーチャンネルで制作された『幻のコンセプトカー大全集(日本版タイトル)』で特集されていたことも記憶している。

さらに最近リフレッシュされ、見る者を圧倒する美しさを保っているこのショーカーについて、RMサザビーズ北米本社は次のようにコメント。

「フォードの最も重要な時代の幕開けに渦巻く力から生まれ、当時から現存する数少ないファクトリーショーカーのひとつであるワンオフ車両は、スチールとファイバーグラス、クロームメッキ、そして輝くキャンディアップル・レッドで歴史に刻まれた歴史的遺産である」

という謳い文句とともに、40万ドル~60万ドルのエスティメート(推定落札価格)を設定した。そして実際の競売では45万6000ドル、日本円に換算すると約6900万円という価格で競売人の掌中のハンマーが鳴らされることになったのだ。

アメリカ国内はもちろん、英国やヨーロッパ大陸のコンクール・デレガンスでもアイドルの座に就く資質を持ったクルマであることを思えば、この落札価格はなかなかリーズナブル……? という見方もあるだろう。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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