日本に1台しかない激レアマシンでサーキットを堪能
1980〜90年代に人気を博したモータースポーツカテゴリーのグループC。そんなレーシングマシンそのもののスタイルを持ち、日本にはたった1台しか存在しないクルマがアルティマ・スポーツの「アルティマ カンナム スパイダー(Ultima Can-Am Spyder)」です。偶然にもそんな超希少車に富士スピードウェイで出会うことができました。
レーシングカーでありながら公道走行可能でエアコンも装備
1980年代から1990年代にかけて、昭和のクルマ好きはモータースポーツに夢中になった。なかでも一番衝撃を受けたのが、プロトタイプレーシングカーと呼ばれるグループCカテゴリーで、ここでは最高時速400km/h超で戦う熾烈なレースが繰り広げられた。
そして、そのレースカーは新たに誕生した空力理論から、ウイングではなく床下からダウンフォースを得ることができるグラウンドエフェクト構造を採用した。平たく伸びやかなボディフォルムが新たなレーシングカー像として我々の記憶に刻まれることになったのだ。今回紹介するのは、そんなモンスターマシンの性能はそのままに、公道仕様として製作されて誕生したマシンだ。グループCカーのスタイリングをそのまま持つこのクルマの名は「アルティマ カンナム スパイダー」。日本に存在するのはこの1台のみという激レア車なのである。
どこからどう見てもCカーそのものにしか見えないこのアルティマ カンナム スパイダーは、英国アルティマ・スポーツ社が2006年に製作したキットカーだ。これと同スペックのクローズドボディ仕様「アルティマGTR」は当時、0-100-0マイル(約0-160-0km/h)の加速+減速テストで9.4秒という世界記録を達成。そして0-100km/h加速は2.6秒、最高速は325km/hをマークする性能を誇った。
外観はル・マン24時間レースに出場するマシンからインスパイアしたデザインで、そのフォルムはまさにレースカーそのもの。だが、室内を見れば公道仕様としてエアコン、パワステ、ナビゲーションシステムといった快適装備も備えている。
現在のオーナーは愛知県在住の溝渕正晃さんだ。このクルマは以前から気になっていたマシンで、たまたま譲ってもらえる話が舞い込み、去年購入したという。ちなみに、その金額は……ウン千万円ということだった。
今回、このクルマとオーナーの溝渕さんに我々が出会ったのは富士スピードウェイであった。しかも、我々がこのクルマを目撃したのはパドックではなく、サーキットコース上だったのだから驚きだ。
博物館に展示されていておかしくないほどの貴重なスーパーマシン。それも日本にたった1台だけしか存在しない希少車がサーキットを全開で攻めているのだ。だが、オーナーにいわせれば、こういう場所じゃないと、このクルマの本来のポテンシャルは発揮できない。むしろ、公道走行ではクルマにストレスを与えるだけだという。たしかにレーシングカーの発想から生まれたクルマにとっては、この意見は正しい。
走行性能はスパルタンな仕様で、快適性能は高級志向
あらためて、アルティマ カンナム スパイダーの仕様を説明しよう。まずエンジンは、シボレーV型8気筒7200ccエンジンをリアに搭載。サスペンションはアルティマ製で、ブレーキはAPレーシング、ホイールはOZで、タイヤはフージャースポーツ(F:245/35R18、R:335/30R18)を履かせている。
また、ハイパワーなエンジンと極太のハイグリップタイヤに対応させる駆動系はすべて強化品に交換されていて、トランスミッションはゲトラグ製6速MT、クラッチとLSDはアルティマ製をセットしている。
コクピットを覗くと、バケットシートはベージュの本革仕様と高級志向な装い。そして、ステアリングホイールがスパルコF-10Cで、オーディオがロックフォードT4652-S、カーナビがカロッツェリアDMH-SF700がセットされているのが面白い。見た目も走りも完全にスパルタンなレーシングカーだが、快適装備が満載でエアコンを効かせた優雅なクルージングも楽しめる。
まさに、こういうクルマこそがロードゴーイングカーとサーキットマシンの両立を見事に体現した希少なモデルだといっていいのではないだろうか。