険しいブラック・マウンテンを越えゴールドラッシュに沸いた街を目指す
広大なアメリカを東西2347マイル(3755km)にわたって結ぶ旧国道「ルート66」をこれまで5回往復した経験をもつ筆者が、ルート66の魅力を紹介しながらバーチャル・トリップへご案内。イリノイ州シカゴから西に向かい、アリゾナとカリフォルニアの州境へ近づいてきました。ここでルート66唯一の険しいワインディングが立ちはだかります。
かつてカリフォルニアの楽園を目指した人々には最後の障壁だった
アリゾナ州キングマンからルート66を西に走って約30分、カリフォルニア州との境界線はもう目前だ。コロラド川を越えて最後の州に突入したいところだが、ルート66で唯一の険しいワインディングが立ちはだかる。
インターステートが開通しクルマの性能が上がった現代では、美しい景色が楽しめる観光道路としてあえてここを通る人も多い。しかしルート66が貧困やダスト・ボウル(1930年代に頻発した砂嵐)から逃亡する道であった時代、楽園と信じていたカリフォルニアを目指す人々にとってこの峠道は、まさしく旅の終盤に立ちはだかる大きな障壁であったといえるだろう。彼らの苦難に思いを馳せつつ、オートマン・ハイウェイとも呼ばれる、細く曲がったルート66を走りブラック・マウンテンを越えてみたい。
そもそもなぜこんな山奥に道を作る必要があったのか。きっかけは次回で詳しく紹介する予定だが、1863年に山で金脈が発見されたことだ。一攫千金を狙う人々がアメリカ全土から押し寄せ、道を切り開きオートマンという街まで建設された。しかし金脈が底をつくと潮が引くように労働者たちは他の土地へ移り、インターステートの完成もありオートマン・ハイウェイの交通量は激減。今となっては私たちのようなルート66を走ること自体を目的としたファンや、残り少ない近隣の住民やオートマンへ物資を運搬するトラックが走る程度だ。
峠の入口に当たるギフトショップ「クールスプリングス・キャビン」から、ゴール地点と目するオートマンまでの距離は15km弱とそれほど長くないものの、大型のキャンピングカーとすれ違うようなときは思わず身構えてしまう道の細さ、おまけにガードレールなんて一切なく路肩がわずかに盛り上がっているだけ。ところどころに滑り落ちたような痕跡が残っているし、崖下には引き上げることもできないであろうクルマもある。風景を楽しむのが目的なのであり得ないことだが、夜間に走るのは私でもさすがに躊躇してしまう。
余談だが家財道具をすべて積み込んで一家で西を目指す、映画『怒りの葡萄』で描かれているような時代のクルマは、パワーが足りずこの道を登れないこともあったとのこと。そこでローギヤードなバックだけで峠を越える、特殊なビジネスがあったなんて話も残っている。