750Sの「マクラーレンらしい走り」を体験
進化を続けるマクラーレンにおいて、ラインアップの中心であるミッドシップ2シーターのスーパーシリーズ、「720S」の進化版となる「750S」。その「マクラーレンらしい走り」の進化をクローズドコースの「MAGARIGAWA」で体感してきました。
スペックは「一体感」を向上させた結果でしかない
「MAGARIGAWA」の“贅沢”な屋内ピットレーンに、色味も鮮やかなマクラーレン「750S」が数台、並んでいた。案内された我々一行はそれらを眺めつつ、この新型スーパーシリーズの概要についてレクチャーを受ける。
もちろん750Sは、その見た目から容易に想像の付くように、2017年にデビューした720Sのエヴォ=進化版だ。デビューから7年近くが経ったとは思えないほどそのデザインは新鮮さを失わず、マクラーレンであるという独自のアピール力も未だ存分に発揮する。だからいわゆるマイナーチェンジでは見た目の雰囲気を大きく変えることなく、主にエアロダイナミクスの更なる磨き上げにデザイン部門の仕事は費やされたようだ。素人目にはパッと見、同じ。720オーナーが見れば違いは歴然。特にリアまわりには大きくなった可動式のカーボンウイングやアンダーディフューザーなど、「765LT」の知見を大いに取り入れている。
車名の数字はそのままM840T型4L V8ツインターボエンジンの最高出力を表す。720から765を経て750へ。ターボチャージドゆえ、馬力の変更そのものは容易いだろうし、+30psという数字には車名として新しさをアピールする役割も大きい。実際、そのエンジン性能は765とほぼ変わらないだろうから、750という数字は絶妙な落としどころだったとも言えそうだ。
進化の結晶が凝縮された至高の1台
クラス最強を誇っているとはいえ出力スペックそのものは、マクラーレンが「12C」以来目指してきた“ドライバーとの一体感とコミュニケーション能力”をより向上させた結果でしかない。それよりもエアロダイナミクスの向上に加えて、乾いた雑巾を絞るかのような更なる軽量化と綿密にシミュレートされたギア比の再設定、そして何より伝家の宝刀というべき“プロアクティブシャシー”の進化などの結晶が「マクラーレンらしい走り」をいっそう鮮やかに演出する。
マイナーチェンジまで6年。決して数の出るモデルではない。それゆえ外から見ればまだまだ新鮮に映る。けれどもその間、パフォーマンスの進化を促す時間はかなりあったとも言える。事実、マクラーレンはアルティメット=究極のモデルもいくつか世に送り出した。
そんな750S(というかマクラーレン製スーパーカー)の進化がよく分かる舞台は公道ではなく、やはりクローズドコースである。「MAGARIGAWA」はいわゆるサーキットではない。ドライビングを楽しむために専用設計されたコースだ。サーキットや峠道から“楽しい道”だけを選び抜いて造られたようなもの。新型マクラーレンを試すのに絶好の場所でもあった。
磨きがかかった「マクラーレンらしい走り」
コースへ出て右足に軽く力を入れた瞬間に「あ、速い」と感じた。そこから踏み込んでいくとあっという間に100km/hを超え、200km/hに達する。その間、車体は凄まじく安定しており、不安など皆無。焦ることがない。加速の一瞬一瞬をじっくりと感じることができる。その結果として、あまりの速さに恐怖を覚えた。
スリリングな加速の結果、不安が高じて怖いと思うのではないのだ。瞬間を感じる余裕があるからこそ、どこまでも伸びる加速に恐怖するとでも言おうか。MAGARIGAWAの下りストレートで軽く250km/hを超えていく。
印象的だったのは加速中よりも3割増しで減速中の方が安定していたことだ。車体の軽さと空力(ガバッとリアウイングが立つ)を生かした制動の確かさはロードカー最高レベルである。
旋回中の手応えも確かなもので、両手とタイヤがダイレクトにつながっているような印象を受ける。ステアリングホイールの触り心地が抜群なこともあって上半身は前輪と一体となり、逆に下半身は良くできたシートと強靭なボディのおかげで後輪と一体となる。要するにこのマシン最大の魅力は、ドライバーを介して前輪と後輪とが一体となる感覚を提供する点にこそあった。
感動的だったのは、MAGARIGAWA名物の上り急勾配で狙ったラインを思い通りにトレースしつつ右足の強弱ひとつでメリハリのあるコーナリングを楽しめたことだ。これはもうライトスポーツカーの領域だと思う。パワーウェイトレシオと前後重量配分にこだわって作られたカーボンシャシーのスポーツカーならではというべき、それは走りであった。
最後に。720Sに比べて随分とサウンドが耳に心地よい。単なる爆音ではない。右足の動作を制御する神経に直接響く音だった。