AMGのC 63は新時代の「羊の皮を被った狼」
Cクラスのトップハイパフォーマンスモデル「63」がメルセデスAMGの手によって新世代へ。マイスターが手作業で組み上げた2Lエンジンにパフォーマンス重視のモーターを組み合わせ、システム最高出力680ps/最大トルク1020Nmという驚きのパフォーマンスを発揮します。
最強2リッターエンジンへダウンサイジング
2021年に国内導入が始まった現行「Cクラス」(W206)に、トップパフォーマンスモデルのメルセデスAMG「C 63 S Eパフォーマンス」が追加された。
Cクラスに「63」の名が初めて使われたのは、2007年、W204のころ。自然吸気の6.2L V8エンジンを搭載し、史上最強のCクラスと呼ばれた。次のW205の世代のC 63は、環境性能を高めるため4L V8ターボへとダウンサイジングする。
そして現行Cクラスに登場したC 63は、一気に2L 4気筒へと排気量&気筒数を半減。それだけでは63の名にふさわしいパフォーマンスが得られないため、車名に「E」とあるように電動化技術によってカバーする。
フロントアクスルには、AMGの伝統である「One man, One engine」の哲学にのっとり熟練のマイスターが手作業で丹念に組み上げた「M139」型2L 4気筒ターボエンジンを搭載。これにメルセデスF1チームが採用している技術を生かしたエレクトリック・エキゾーストガス・ターボチャージャーを組み合わせ、エンジン単体で最高出力476ps/最大トルク545Nmを発生する。これは2Lエンジンとしては世界最強のものだ。
そして、リアアクスルには、最高出力204ps/最大トルク320Nmを発生する駆動用モーターを搭載。前輪を2Lターボエンジンが、後輪をモーターが担う4輪駆動で、システムトータルの最高出力は680ps、最大システムトルクは1020Nmに到達する。前後トルク配分の連続可変が可能な4MATIC+を採用。通常走行時はリア駆動を基本とし、走行状況やドライバーの操作に応じて前後トルク配分を0:100~50:50の間で振り分ける。
F1マシン由来の技術による高性能バッテリー
ちなみにモーターは、電動シフト式2速トランスミッションおよび電子制御式リミテッド・スリップ・デフ(LSD)とともにコンパクトなエレクトリックドライブユニット(EDU)にまとめられて、P3ハイブリッド(変速機内あるいは変速機よりも下流に電気モーターを置く)と呼ばれるレイアウトを採用する。これにより前後重量は前1060kg:後1100kgと、限りなく50:50に近いバランスとなっている。
また、容量6.1kWhのバッテリーを備えたプラグインハイブリッドモデルでもある。ただし、その容量からもわかるとおり電動走行距離をかせぐのではなく、速やかな充放電を念頭に設計されたもの。このAMGハイパフォーマンスバッテリーは、F1マシン由来の技術で高出力を頻繁に繰り返し発生できる能力と軽量構造とを兼ね備える。これにより、ワインディングなどの上りで瞬時に100%のパワーを引き出すことができる一方、下りでは効率的に回生エネルギーを得られる。EV走行可能距離は15km(WLTCモード)だ。
誰もが日常的に使える柔軟さがある
その高効率バッテリーの性能を活かしながら、エンジン出力や駆動力配分、回生ブレーキ、シャシーなどを緻密に統合制御してくれる。それら一連の制御はとても自然なもので、ドライバーが運転中に意識することはない。
システムトルクは1020Nm、0-100km/h加速は3.4 秒と、スーパーカー並みのスペックだが、暴力的な速さや危うさのようなものは感じない。また4輪それぞれを電子制御する連続可変ダンピングシステムを備えたAMG RIDE CONTROLサスペンションによる乗り心地のよさがより一層洗練された印象を引き立てている。さらに後輪操舵システムのリア・アクスルステアリングを標準装備したことで中高速域での安定性と、駐車するシーンなどでの取り回しのよさが向上している。かつての63にあった暴力的な排気音も、路面等の凹凸を頻繁に拾う硬い足も備わっていない。とくに意識しなければ、誰もが日常的に使える柔軟さがある。
いまやF1のパワーユニットも1.6Lターボエンジンに2つのモーターを加えたハイブリッドシステムだ。かつての甲高いエキゾーストノートは聞かれなくなったけれど、燃費をはじめ高効率になり、タイムは年々速くなっている。見た目はふつうのCクラスだけれど、中にはF1由来のハイテクを詰め込んだ、新しい時代の「羊の皮を被った狼」なのだ。