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1950年代に一世を風靡した、メルセデス・ベンツ「300SL」ガルウイングクーペの再来とうたわれたのが、2009年9月にフランクフルトモーターで発表された「SLS AMG」です。このSLS AMGの特徴は、メルセデス・ベンツとAMGの両ブランドの強みを活かしたスーパースポーツカー。つまり、いまやメルセデス・ベンツの伝説となった300SLガルウイングのスタイルにAMGの技術を注ぎ込み、理想的な形で融合させて現代に蘇ったのです。あらためて搭載されたメカニズムなどを紹介。ただ速さを追求するだけではない、メルセデス・ベンツとAMGのこだわりとは?
メルセデス・ベンツ伝統の「エンジンよりも速いシャシー」の意味
メルセデス・ベンツがいう「高性能」とはバランスのとれたクルマのことであり、エンジンパワーが強すぎてコントロールの難しいクルマはメルセデス・ベンツでは不合格。すなわち、メルセデス・ベンツのいう安全なクルマとは、エンジン性能をフルに駆使しても余裕あるサスペンション、そしてブレーキ、操縦性などで、誰にでもコントロールできるクルマであるという条件が第一となっている。そこで、スーパースポーツカーであるSLS AMGの能動的安全性(事故を起こさないための安全性)である「走る性能・曲がる性能・止まる性能」について紹介。コンパクトカーから本格スポーツカーまで、その考え方は同じなのだ。
「One man-One engine」で生み出される高性能V8パワーユニット
SLS AMGのエンジンは、フリードリッヒ・アイヒラー博士が3年の歳月をかけて独自開発した芸術作品である。「One man-One engine」で造られるAMGならではの高性能な6.3L V型8気筒DOHCエンジンを構成する550個のパーツは、すべて精密な計算の基に設計されている。加えて、これらのパーツ類は、すべて専門の検査用具を使用し、600時間以上にわたる過酷な検査を受け、耐久性を確かめた後に初めて使用される。
つまり、エンジンを形成するすべての部品は、耐久性の検証を受けている。これはAMGモデルの開発プロセスにおいて標準的に行われる作業であり、決して例外はなく、スーパースポーツカーであるこのSLS AMGにおいても同様に行われる。
ドライサンプ式エンジンオイル潤滑システムを採用
従来の「M156」エンジンをベースにドライサンプ化し、120以上のパーツを新設計した「M159」を搭載している。最高出力は571ps/6800rpm、最大トルクは66.3kgm/4750rpm、最高速度は317km/h(リミッター作動)、0‐100km/h加速は3.8秒と、スーパースポーツにふさわしい圧倒的な高性能を発揮する。
このように大幅な高性能を実現した主な要因は、気流を最適化し吸気効率を高めたマグネシウム製インテークマニホールドシステムや、よりきめ細かい制御を行う可変吸排気バルブ/カムシャフトコントロールシステム、等長エキゾーストマニフォールド、エキゾーストシステムのスロットル小径化などである。
このような対策により、シリンダー充填が大幅に改善され、最高出力は9%近く向上するとともに、全回転域でのスロットルレスポンスも大幅に向上。電子制御のスロットルは全開までわずか0.15秒という、卓越したレスポンスを誇っている。
また、エンジンオイル潤滑をドライサンプ方式とすることにより、エンジン搭載位置をこれまでよりかなり低くすることと、高速コーナリング時の強い橫Gがかかった状態でも安定的なオイル供給が可能となる。つまり、通常のウエットサンプ方式では、エンジン下にオイルを溜めるオイルパンが必要だが、このドライサンプ方式の場合、オイルタンクの位置や形状を自由にでき、エンジンの搭載位置を低く設定できる。そのためクルマの重心が下がり、高速コーナリングとダイナミックなハンドリングを実現する。
トルクチューブを備えたトランスアクスル式デュアルクラッチトランスミッション
V8エンジンの強力なパワーをリアアクスルへ伝達するため、DTM(ドイツツーリングカー選手権)のレースマシンにも採用された、わずか4kgの軽量かつ高剛性なカーボンファイバー製ドライブシャフトを搭載。鋳造モノブロック構造の25kgのアルミニウム製トルクチューブを採用し、エンジンハウジングからリアアクスルに搭載されたメルセデス・ベンツ初採用のデュアルクラッチトランスミッション(トランスアクスル)に接続している。
このメリットは、エンジンとトランスミッションとの間が高剛性リンクとなることにより、発生する力やトルクに対するレスポンスが最適化されることにある。このように、トランスミッションをリアアクスル後方に配置するトランスアクスル・レイアウトを採用したことで、フロントアクスル後方に配置されたフロントミッドシップエンジンとともに47:53という理想的な前後重量配分にも貢献。スーパースポーツにふさわしく、レーシングカーと同じメカニズムをドライバーに体験させてくれる。
新開発のAMGスピードシフトDCT 7速トランスミッションは、変速時間が最速で1000分の1秒まで高速化され、トラクションが途切れない素早いギアチェンジを可能にした。このDCTの意味はデュアル・クラッチ・テクノロジーの略。つまり、エンジンの動力をギアセットに伝えるトルクコンバーターに代わり、湿式多板クラッチを採用し、マニュアルトランスミッションのようなダイレクト感とスピーディなシフトチェンジを実現したもの(湿式とはいつも潤滑油で冷却されていることであり、多板とは薄いクラッチ板を何枚も重ねて押し付けて使う動力伝達装置)。
ドライブモードは、「C」=コントロールエフィシェンシー(燃費優先)、「S」=スポーツ、「S+」=スポーツプラス、「M」=マニュアルの4つの異なるモードを備えている。特に、Mモードではシフトチェンジに要する時間が0.1秒以下となり、アグレッシブなスポーツ走行にも対応。さらにF1テクノロジーを受け継ぐRACE START機能も搭載しており、発進時のトラクションを最大化することが可能だ。
S、S+、Mの3つのモードでは、自動ブリッピング機能が働き、AMGドライブユニットシステムのトルクレギュレーターにより管理されている。加えて、コンパクトなトランスミッションケースに一体化した機械式LSD(リミテッド・スリップ・デファレンシャル)により優れたトラクション性能を発揮し、SLS AMGの卓越したパワーを確実に路面に伝達する。
F1のノウハウも注ぎ込まれた足まわりに可動式リアウイングを採用
足まわりは、レーシングスピリットあふれるアルミニウム製4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションを採用。メルセデス・ベンツとAMGは、理想的なスーパースポーツカーを造り上げ、サーキット性能とメルセデス・ベンツならではの長距離快適性を両立させることを目指して洗練されたシャシーレイアウトを実現した。
ホイールの支持には、F1などのレースでも実績を挙げたトラックロッド付きデュアルAアームを採用している。専用設計のダブルウィッシュボーンサスペンションは、ホイール支持とサスペンション機能は互いに分離しており、スプリングストラット/ダンパーストラットを下側のラテラルリンクで支えている。この剛性と操縦安定性に優れるダブルウィシュボーン式は、上下動を最小限に抑えつつ、極めて厳しい状況においても最適なロードホールディング性を確保する。
トランクリッドに120km/hを超えると自動的に立ち上がるリトラクタブル・リアスポイラーを装備しており、高速域でのダウンフォースを高め、優れた高速安定性に貢献する。しかもこのリトラクタブル・リアスポイラーは、80km/h以下になると自動的に格納するが、センターコンソールのスイッチによってマニュアル操作も可能だ。