新型Eクラスのセダン&ステーションワゴンに試乗
メルセデス・ベンツの中核モデルとなる「Eクラス」がモデルチェンジし、11代目へと進化しました。戦略価格のPHEV「E 350 e スポーツ」を中心に試乗。電動化を果たしつつ、クラシックで正統派なスタイルのセダン&ステーションワゴンの乗り味をお伝えします。
スタイルは正統派FRサルーン&ワゴン
「Eクラス」は昔からメルセデス・ベンツの乗用車ラインナップにおける大黒柱だった。もはや昔ほどセダンやステーションワゴンに注目は集まらず、SUVスタイルが一般的な選択肢となり、どころかブランド的にはBEVへの取り組みに熱心さが増した今となってもなお、Eクラスはメルセデスの核心だ。
それゆえEクラスのモデルチェンジはこれまで必ず同じ世代の締めくくりとして行われてきた。つまり同じジェネレーションにおいて最も完成度の高い状態でのデビューとなる。たとえば新型のEクラスはコンパクトからラージまで拡張性に富んだFRプラットフォーム“MRA II”を使う最後発のモデルである。順序としては高価な「Sクラス」でまずは新たなテクノロジーを導入し、次にコンパクトな「Cクラス」で量販に移し、満を持してEクラスをデビューさせるというわけだ。それだけEクラスは失敗の許されないモデルであるとも言える。
11代目、W214となった新型Eクラス。2024年1月の東京オートサロン(似合わない舞台だが)でセダンとワゴンが同時にデビュー。セダンに3種類、E 200 アバンギャル(ガソリンISG搭載)/E 220 d アバンギャルド(ディーゼルISG搭載)/E 350 e スポーツ(ガソリンPHEV)、ワゴンに2種類、E 200ステーションワゴン アバンギャルド(ガソリンISG搭載)/E 220 d ステーションワゴン アバンギャルド(ディーゼルISG搭載)のパワートレイン別グレードを用意する。エンジンは全て4気筒。
注目のグレードはやはりPHEV(プラグインハイブリッド)のセダンE 350 eだ。約20kWhのバッテリーを積み、フル充電で112km(WLTCモード) の電動走行を可能とした。話八分としても90km近くはBEVとして走ってくれそうだ。往復90kmもあれば通勤に使うという人でも十分だろう。ちなみに週5で1日90km走るという人の年間距離はおよそ2.2万kmにもなる。普通はそこまで乗らないはずだから、これだけのバッテリー性能があれば十分である。
とはいえ、オーナー像は限定される。BEVと同様にガレージに専用の充電器を設営できる、もしくは通勤先に充電器があるというようなユーザーであれば、ガソリンスタンドに行く回数は激減するだろう。
驚きの価格設定
注目すべきはE 350 eの価格設定(988万円/消費税込)で、なんとAMGラインのパッケージオプションをつけたガソリン4気筒のE 200と、さほど乗り出しのプライスが変わらない。補助金がつけばさらに差は縮まる。逆にいうとE 350 eはバーゲンプライスだというべきで、そこにはBEV風味のカーライフを早めに経験してもらおうという魂胆もあるようだ。PHEVに乗ると、できるだけエンジンを掛けたくなくなる。ガソリンスタンドへもきっと行きたくなくなる。そうなればBEV信者へとまっしぐら、というわけだろう。
今時のサルーンデザインは、どこかに新しさを演出したくなるものだ。メルセデスもBEVの「EQE」ではワンモーションフォルムを採ったりした。けれども新型Eクラスのデザイン的な印象は、従来よりもいっそうロングノーズを強調したクラシックで正統派のFRサルーンというものだった。スポーティさも適度にあって、昔ながらのクルマ好きにはすんなり受け入れられそう。そう、セダンやステーションワゴンはもはやそういう存在だ。
サイズ的には今回もやはり大きくなった。とはいえ全長5m以下、全高1.5m以下をなんとか守った。個人的にはメルセデスが率先してサイズを小さくすれば他のメーカーも追従すると思うのだが……。
インテリアの印象はグッとEQEに近づいた。“ハイパースクリーン”をちょっと簡素にしたような“スーパースクリーン”(オプション)がまずは目に新しい。ダッシュボード上の真ん中あたりには小さなカメラがあって、Zoomで会議もできるという(やめてくれ〜)。要するにサードパーティのアプリをスマホのようにダウンロードして駆使できるというわけ。さらに“ハイ、メルセデス”と声をかけなくても、「温度を下げて」「どこそこへ行きたい」とすぐさま話しかけても音声認識が作動する(ただし乗員がドライバー1人の状態)。
「重すぎ」と「軽すぎ」の贅沢な悩み
戦略プライスのE 350 eから試した。静かにゆったり動き出す風情はもはやSクラスに近い。5mのサルーンとは思えないほどに重厚感もたっぷり。電気モーターのトルクを上手に制御してエンジン出力と協調させている。結果、加速の力強さとスムーズさは天下一品だ。それでいてカントリーロードでは軽快な走りをみせた。後輪操舵と相まってその動きは車体の“短さ”を十分に感じさせてくれる。そこはなるほどEクラスらしい。
高速道路でも試す。優れた静粛性としなやかな重厚感に満ちたクルージングはやはりSクラスを走らせている感覚に近い。重いクルマ造りに歴史的に長けたブランドだけあって、重さがドライバーの敵になることがない、むしろ味方になっているのだ。
果たしてここまでSクラス寄りの重厚な走りをEクラスに求める人がいるのだろうか? などと贅沢なクレームを心に書き留めつつ、おそらくは人気のグレードとなるはずのディーゼルエンジンを積んだE 220 d ステーションワゴンに乗り換える。
試乗会なのでもちろんラゲッジには何も積まれていない。つまり空荷だ。だからだろうか、30km/hを超えてからの低中速域で妙にゴツゴツとした印象があった。タイヤの影響もあったかも知れない(ちなみにタイヤの種類をオーナーが選ぶことはできない。全部で6銘柄の用意があるという)。
70km/hを超えてくると、ゴツゴツとした印象が急に消えてなくなった。ディーゼルパワートレインによる加速は爆発的ではないものの力強く、それゆえコントロールしやすい。ディーゼルとはいえ4気筒なのでノーズの動きは十分に軽やか、ステアリングフィールも良好だ。いかんせん踏み込んだ時のエンジン音は発電機のように野暮だけれど、ボリュームだけはなんとか抑えられた。低回転域で十分力強い高速クルージングの走りはディーゼルならではだ。
これら2台からガソリンISG搭載のE 200に乗り換えてみれば、そのかったるさにまずは驚く。それでも踏み込めば必要十分な力を出して加速フィールはあくまでもなめらかだ。しかも低速域からの乗り心地もいい。前輪のさばきにはちょっとCクラス的なグレード感もあって、Eクラスとしてはやや物足りないとは思うものの、半時間も付き合ううちに十分馴染んできた。高速クルーズの安定感、安心感にも文句はない。
とはいえその動的フィールのみをいえば、E 200はちょっと軽すぎで、反対にE 350 eでは重すぎる。個人的にはちょうどその真ん中のEクラスが欲しい。遅れて導入されたE 300がそれに当たるのだろうと、早く試してみたい気分でいっぱいだ。