メキシコ・ブルーに全塗装し新車同然に仕上げられた1台
2024年3月8日、RMサザビーズがドバイで開催したオークションにおいてポルシェ「911カレラ クーペ by RWB」が出品されました。今回登場した911カレラはドバイに到着後、ホワイトボディにしたうえでカスタムが施されました。左右両側のドアには「HIDEYOSHI」そして「秀吉」の文字がともに描かれ、RWBによるダイナミックな造形のエアロパーツとともに完成しました。
日本の「RAUH-Welt BEGRIFF」が手がけた1台
ポルシェ「911」が誕生して、すでに60年以上の時間が経過した。この間911は着実な進化を続け、スポーツ志向の強いユーザーはもちろんのこと、GTとしての性能も高く評価され続けてきた。1980年代終盤に誕生した964型911、あるいはその後継である993型911などの空冷モデルは、すでにクラシック・モデルとしての価値も高まりつつあり、これからはさらに911は、あらゆる世代でその人気を高めていくことは間違いないだろう。となればそれらをどのようにレストアするのか、あるいはチューニングしていくのかにも大きな興味が集まるのも確かだ。
ここで紹介するRMサザビーズのドバイ・オークションに出品されたモデルは、1995年式の911カレラをベースとするもので、デリバリー時のカラーリングはエクステリアがアイリスブルーメタリック、インテリアはブルーとグレーのインテリアで仕上げられていた。出荷先はアメリカのオハイオ州で、その後フロリダ州に移ったものの、2006年には新たなオーナーとともにメリーランド州に安住の地を得た。CARFIXのレポートにはこの間フロントエンドに軽度のダメージを受ける衝突事故に巻き込まれたとあるが、修理の後2016年にはアラブ首長国連邦のコレクターに売却され、同年10月にロサンゼルスから輸出された。
ドバイに到着後、このモデルに全面的なコスメティック・リフレッシュを行ったのが、日本のポルシェ・チューナーである「RAUH-Welt BEGRIFF」(ラウヴェルト・ベグリフ)だ。略してRWBと呼ばれることも多く、以前はドリフトやレースにも参加していた経歴を持つ(この時のチーム名がラウヴェルトのもととなった英語のRough Worldだった。またBEGRIFFとはConceptを意味する)、中井 啓氏によって1997年に千葉の柏市で設立された、おもにクラシック911を扱うスペシャル・ショップ。とくに空冷911へのこだわりは強く、その仕事はつねに自分自身で納得のいくまでストイックに行われる。
ボディサイドには「秀吉」の文字
今回登場した911カレラも、ドバイに到着後、まずはそのペイントをホワイトボディとなるまで剥がされ、その後に鮮やかなメキシコ・ブルーで再塗装されている。インテリアはブラックレザーとアルカンターラによるコンビネーションが美しく、もちろんその仕上がりは新車同然と表現してもよいほどのレベルだ。
そして2021年6月には、日本のストリートアーティストであり、岐阜県の安八町を中心にウォールアートを無償で描いていることで知られるRoam Couch(ローム・カウチ)氏による、豊臣秀吉のステンシルが左右両側のドアに、「HIDEYOSHI」そして「秀吉」の文字ともに描かれ、RWBによるダイナミックな造形のエアロパーツとともに完成したのである。
2021年10月には、ドバイのアレックス・レナ・モータース・ガレージによって、エンジンオイルをはじめ、オイルフィルター、燃料フィルター、花粉フィルター、スパークプラグ、エンジンベルトを交換するメンテナンスを受けたものの、そのほかのコンディションには問題は見受けられなかったという。はたして中井 啓氏の目的意識に満ちあふれた芸術品ともいえる作品は、オークションでどのような評価を受けるのだろうか。
参考までに予想落札価格は15万〜20万ドル(邦貨換算約2235〜2980万円)だったが、実際の落札価格は12万750ドル(邦貨換算約1775万円)という結果になった。だがRWBの存在がさらに広く知られれば、その価格はどんどん跳ね上がるに違いない。そう、絵画などと同じ感覚を胸に抱いたオークションだった。