S20型エンジンの真実はいかに
日産「スカイライン2000GT-R」(PGC10型/通称ハコスカ)は、神話ともいえる伝説を作ったクルマです。量産車として世界で初めて4バルブDOHCエンジンであるS20型エンジンを搭載し、1969年5月〜1972年3月の間に国内レースで50勝という快挙を成し遂げました。レースで勝つべく磨かれたエンジンは、どのような経緯をたどって完成したのでしょうか。
量産用として設計されたS20型エンジン
日産「スカイライン2000GT-R」が搭載したS20型エンジンについて語るなら、プロトタイプレーシングカー「ニッサンR380」の直列6気筒エンジンであるGR8型ユニットに触れなければいけない。なぜなら、S20型エンジンはGR8型エンジンの量産用として設計されたエンジンだからだ。
一説によると、スカイライン2000GT-Rの発表当時、搭載ユニットであるS20型エンジンはGR8型エンジンのデチューンであると公表された。しかし、ある設計者の話ではかなり部品面で違っていて、新設計の箇所も多く別物であるという意見もあったという。
その一方で、基本的な発想と考え方、方向性についてはGR8型エンジンを継承した面も色濃く、レース用エンジンの量産版として間違いないという開発者、メカニックたちも多くいる。いずれにしてもどちらのエンジンも、日産が生み出した素晴らしいパフォーマンスを発揮するモデルであったことは間違いない。
国産乗用車用として初の6気筒SOHCエンジンを搭載
S20型エンジンはGR8型エンジンをベースにした事実は変わりないが、そのGR8型エンジンにもベースになったエンジンがあった。それが、初代「スカイライン2000GT-A/GT-B」に搭載されたGR7型エンジンであった。もともとプリンス「グロリア スーパー6」に搭載していたエンジンで、国産乗用車用として初の6気筒SOHCエンジンを搭載した。
初代「スカイライン2000GT-A/GT-B」が搭載したエンジンは、そのGR7型エンジンのチューニングバージョン。レース用にカウンターフローSOHCだったものをロッカーアームDOHC・V型バルブ配置のクロスフローに改造したGR7B型エンジンに進化させた。ここでは、さらに空気流量の最適化を追求するべく、さまざまなポート形状も試験されたという記録も残っている。
GR8型エンジンは、このGR7型エンジンの高効率化によって生み出され、より高性能エンジンとして進化。高回転に備えた剛性確保、カウンターウェイトや燃料供給システムの見直し、キャブレターの変更、各パーツの精度アップによって高効率、高性能化を目的にチューニングされた。「ニッサンR380」搭載の後半時期には最高出力を220psオーバーまで引き上げた。これは、当時のライバルであったポルシェ「カレラ」を10ps上回るパフォーマンスだったという。
レース仕様の最高出力は255ps
高性能に磨きをかけて作られたGR8型エンジンをベースに量産モデルとして登場したS20型エンジン。主な変更点は、シリンダーヘッド、カムシャフト駆動方式、ウェットサンプ化、さらに生産向上を狙ってシリンダーヘッドはカムキャリアと一体化され、剛性アップも達成。
また、GR8型エンジンはバルブリフターの軽量化のため、バルブスプリングの上に重ねる小径のリフターが使われていたが、S20型エンジンではシリンダーヘッドを低くするために大型のリフターが採用。バルブ径も拡大された。
カムキャリアが一体式になったことでシリンダーヘッド上面は下面と平行になり、シリンダーカバーは吸気側と排気側を一体化したデザインになった。このことから、日産では初めてのヘッドカバー造形デザイナーが誕生。エンジンの顔であるヘッドカバーにこだわる発想もここから生まれた。
GR8型エンジンとS20型エンジンの違いについては、他にも色々ある。その一例が、ストロークを0.2mm短縮したことで、GR8型エンジンは1996ccだったが、S20型エンジンの排気量は1989ccとなっている。ただ、これはボーリングに対するゆとりを持たせた設計という考えだ。チューニングを行う際に、オーバーサイズを組めるようにあらかじめ用意していたといえる。
GR8型エンジンははウェーバー製キャブレターだったが、調達コストの低減という理由もあり、S20型エンジンでは三国工業が量産化に成功したソレックス気化器を採用。ちなみに、レースにおいてはGR8型エンジンと同じルーカスの燃料供給システムを搭載。S20型エンジンを搭載するレース仕様の最高出力は、最終的に255psまで引き上げられたといわれている。