「操作系」がハイテクからアナログへと回帰
最新のクルマはインパネの操作系にタッチパネルが採用されていることが多く、空調からオーディオといったインフォテインメントシステムまでタッチモニターに集約されているクルマが増えています。物理的な操作ボタンやスイッチが姿を消しつつありましたが、じつはそんな「操作系」がハイテクからアナログへと回帰しつつあるようです。どういうことなのか、探っていきましょう。
クルマ自体がネット接続ツールへと変化した
最近デビューしたクルマに乗ると、かなりの確率で思うことがある。それはこれまで慣れ親しんだ物理スイッチ、すなわち押したり(ボタン式)回したり(トグル式)することで、ドライバーの意思をクルマに反映させる、昔からあるスイッチが極端に少なくなっていること。スイッチの大小やレイアウトはメーカー各社で違いはあるものの、基本的には人間工学を意識した、自然に手が届く範囲で、かつその位置を覚えてしまえば走行中にでも視線移動を行うことなくその操作が可能であることが、この物理スイッチのメリット。その進化形ともいえるステアリング・スイッチの使い勝手の良さは、誰もが認めるところだ。
その物理スイッチがなぜ、年々その姿を消してしまっているのか。その理由は、もはやクルマが移動の手段であるばかりではなく、インターネットへの接続ツールとしての機能を持ち始めていることにあると見るべきだろう。
最初はセンターコンソールやコンソールの上部に控えめに鎮座していたタッチパネルは、今や大型のタブレットサイズを採用する例もあるくらいだが、それによってインパネまわりやコックピットのデザインは、物理スイッチの時代よりスタイリッシュに、そしてさまざまな機能をこのタッチパネルに集約することが可能になった。スマートフォンとの連携も、このタッチパネルがあればこその機能である。
タッチパネルに国家の規制が入りつつある
はたしてこれまでに、物理スイッチからタッチパネルに移行して好印象を覚えたモデルがあるだろうか。若いデジタル世代の編集者は、それを簡単な操作のひと言で片づけてしまうけれど、それでも操作が必要なスイッチにたどり着くまでは何層も深いページへと至らなければならないことも多い。走行中に自分でそれを実行するのは正直なところ無理だ。だからエアコンが寒いなら寒いまま、暑いなら暑いまま信号でクルマが止まるのを心待ちにし、必要以上の操作をしないのが私自身のタッチパネル車のドライビングスタイルだ。
ちなみにタッチパネル車の安全性に関してはヨーロッパの自動車安全評価機関、ユーロNCAPや、アメリカの運輸省道路交通安全局NHTSAも2010年代からさまざまな通達を出しており、ユーロNCAPは2026年以降、主要な機能に物理スイッチを割り当てているかどうかも安全性の基準に加えることを発表。一方のNHTSAは2013年には早くも、ひとつのタスクは2秒以内に終了で、合計でも最大12秒で完了できるよう提言している。これらはいずれもタッチパネル操作のための視線移動を最小限に抑えることを目的としたものだ。
もちろんここまで急速に採用例が増えたタッチパネル車には、メーカー側にもいくつかの事情がある。たとえば無線通信技術を使用して機能をアップさせるOTA(オーバー・ジ・エア)の普及に関する動きもそのひとつだろう。
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このOTAによってカスタマーは、仮に何かのプログラムのアップデートがあったとしても、ディーラーへとクルマを持ち込むことなく、つねに自動的に最新の修正プログラムを入手することができる。それはエンターテインメントやナビゲーション系のアプリなどに関しても同様。これからのクルマはさらに急速な勢いとアイデアでタッチパネルをメインとした操作系、そしてインテリアデザインの進化を遂げていくことは間違いないところなのだろう。