2台のGRスープラGT4 EVOで参戦となった
2024年4月6日と7日の2日間にわたりダブルヘッダーとして開催されたNLS(ニュルブルクリンク耐久シリーズ)の第1戦(第64回 ADAC ACASカップ)と第2戦(第63回 ADAC Reinoldus-Langstreckenrennen)に、小林可夢偉、小高一斗、平良 響、野中誠太の4名のドライバーがGRスープラGT4 EVOを駆り、初挑戦となるノルドシュライフェへ挑みました。
2025年の24時間耐久レースに向けて、ニュルブルクリンク専用ライセンス取得が最大の目的
今回のNLS参戦の目的は、Permitと称されるDMSB(ドイツ・モータースポーツ連盟)の発行するニュルブルクリンク専用のライセンスを取得することで、タイムや順位には全く重点を置かず、ノーミスでニュルライセンスAを取得して帰国することだった。
ニュルといえば、トヨタ自動車をはじめ、世界の大手自動車メーカーやタイヤ等のサプライヤーが開発テストを行う、自動車産業にとって非常に重要なサーキットのひとつでもある。高低差が300mもあり、数多くのブラインドコーナー、ジャンピングスポット、高速のストレートやカルーセル等、キャラクター豊かなノルドシュライフェは、プロアマを問わず多くのレーシングドライバーを魅了し続けている。そんなニュルを初めて走行したTOYOTA GAZOO Racingの4名のドライバーに、その印象を聞いた。
小林可夢偉選手
「ドライバーとして、一度はここを走ってみたいと思っていましたが、なかなかスケジュールの都合で叶いませんでしたが、やっと今日その日がやってきました。今回はライセンス取得が目的でしたので、私のおばあちゃんを助手席に乗せているつもりで、ひたすら慎重に走行を重ねることを心掛けました。
今回は敢えてコースを覚える事をしていません。なぜなら覚えたと思った瞬間に気の緩みが起きますので、進む先に何が来るのか、常に危機を予測しながら安全にドライブすることを念頭に置いていました。NLSやニュル24時間レースは“草レース”です。このレースに関わる方々や参加しているドライバーにリスペクトを持ちながら、私自身も精一杯この雰囲気を楽しむつもりで来ましたし、実際とても楽しんでいます。IMSAのようにファンとの距離が近い雰囲気が良いですね」
小高一斗選手
「GT4マシンをドライブするのもニュルやその独自のルールも初めてでしたが、この週末にはその両方を一度に学べて、まさに一石二鳥でした。シミュレーターでは何度も事前に走り込んできましたが、実際に来てみると高いバンクやカントは、日本の一般的なサーキットとは全く違うことを実感し、まさしく山道のようだと思いました。
講習会やフリープラクティス、そして土日のレースを通して走り込む中で、最初は恐怖心も少しはあったのですが、周回を重ねる中で少しずつ頭の中で整理しながら走ることを心掛け、決勝レースは土日共に落ち着いて、自信を持って挑めたと思います。日曜日はせっかくの機会なので私は自身で名乗り出てスタートドライバーを務めました。特にスタート直後はクラッシュが発生しやすく、万が一を考え、黄旗やコード60(60km/hに制限される)等の様々な警告が多く出ると予想して、しっかりと注意しながら走ることを心掛けました。
普段はスーパー耐久でGT3マシンをドライブしているのですが、GT4をドライブする事でGT3の速さがより理解出来ましたし、抜かされる立場の気持ちをよく理解出来、日本に帰国してGT3マシンをドライブする際にはGT4や他のカテゴリのマシンを優しく抜くように心掛けたいと思いました(笑)」
平良 響選手
「このプロジェクトのメンバーに選ばれ、今回NLS参戦への打診を頂いた時は本当に嬉しい気持ちでニュルへとやってきました。コースが狭いのと縦Gの感覚に“怖さ”を味わい、ここがニュルだということを改めて思い知りました。特にジャンピングポイントで強く体感する縦Gでは、着地の際に崩れるバランスを操る難しさがありました。日本のサーキットではなかなかあんなに強い縦Gを感じる所はありません。
ニュルではプロのレーシングドライバーとしての“怖さ”がある一方で、それを超える“心地よさ”があります。喜びを感じながら初めてのニュルを走りました。初めて来て、ポンと勝てるようなサーキットではない事を理解出来ているだけに、今回は第1段階としてライセンスを取得し、今後少しずつ経験を積みながら“レースをする”というコンディションに持って行けるようにしっかりと今後も頑張りたいと思います」
野中誠太選手
「スーパー耐久レースではGRスープラGT4で参戦しており、マシンには慣れていましたので、初めてのコースでしたが、その点では安心して走れたと思います。コーナーの先が見えない、縦にジャンプして強く感じるニュル独特のGを様々な個所で経験し、日本のレース活動ではあり得ないコンディションは、私にとって特別な体験となりました。
ニュルのエスケープゾーンがないような狭い箇所でGT3マシンに道を譲る場面では、私自身もラインを外すとかなりのリスクもあり、壁が近いという恐怖感もありましたが、周回を重ねて少しずつ慣れていく中で、後ろを見る余裕も出来てきました。同じGT4マシンでも、日本の一般的なサーキットを走った時には全く感じない縦Gやバンク、ハイスピードとブラインドコーナーが続くといった日本では体験したことのないコースレイアウトを多く体験でき、クルマのキャパシティやセッティングのセンサーを感じ、自分の中の引き出しが増えたと思います。
ドライバーとコースマーシャルとの距離が近いのが印象的でしたが、コード60をはじめ、ニュル独自の様々なルールがある中で、自分よりも前に誰かが走っていた場合、視界がとても悪く、旗が見え難かったので、見落とすまいと必死でした。チームの目標はノーミスでライセンスの取得を掲げていましたので、私のミスで全員に迷惑を掛けるワケにはいきません。
今回のプロジェクトで初めて可夢偉選手と同じチーム、それも全く同じコンディションで走る機会を与えて頂いたお陰で、先輩の様子をじっくり観察出来たのですが、コースに慣れ、適応する時間の圧倒的な早さ、チームの引っ張り方というのを見ていて、改めて自分の足りない部分や学ぶべき点を多く発見しましたし、直接可夢偉選手からは多くのアドバイスを頂いたので、それを今後の活動に活かせていきたいと思っています」
無事に走りきった4名のドライバー。今後もニュルへの挑戦は続く
今後このTGR-DCのドライバーのニュルプロジェクトでは、今季のNLSに複数回参戦し、プロジェクトメンバーに選出されたドライバーが、日本での活動のスケジュールを調整しながら、小林らと同様に順次ニュルライセンスの取得と、レースサポートを行うKCMGやTGRE(TOYOTA GAZOO Racing EUROPE)のカスタマースポーツのサポートチームのレースフォーメーションを実地で学ぶ目的で渡独する予定だという。日本やアジアで活躍するTGR-DCのドライバーが、今後世界トップクラスへと成長する姿に期待を寄せ、応援したい。