時代を超越した異空間の世界を楽しんだ
世界10カ国から約30台のクラシックベントレーが集結し、日本を駆け巡る「The Rising Sun Rally」の一行が、埼玉県加須市にあるクラシックロールス・ロイスとベントレーのコレクションで有名な「ワクイミュージアム」に立ち寄りました。参加車両の中には日本でもあまり見る機会がない「8リッター」モデルや、一番古いものでは100年以上前の1923年に製造された「3リッター」モデルなども登場し、ギャラリーを大いに沸かせました。
今回は世界10カ国から30台のクラシックベントレーオーナーが参加
1931年までに製造されたベントレーは、創始者ウォルター・オーウェン・ベントレーにちなんで通称「W.O」と呼ばれる。日本にもこの貴重なクルマのオーナーは何人か存在するが、これほどまでに多くの走るW.Oの姿を目にする機会は世界でも多くない。
この「The Rising Sun Rally」はイギリスとオーストラリアのベントレー・ドライバーズクラブが中心となり募集をかけた国際的なアドベンチャーイベントであるが、今回は世界10カ国から30台のクラシックベントレーオーナーが参加した。2017年にも同様のベントレーのツーリングイベント「The Samurai Challenge」が実施されている。
一行は2024年4月4日に九州の博多に集合し、6日にスタート。阿蘇、由布院、別府などのワインディングロードを楽しみ、広島に入る。今回のルートは日本海側を中心としており、その後は石見銀山、出雲、松江、天橋立から京都に向かった。このラリーの良いところは、観光地で1日程度フリータイムが設けられているところだ。
日本の景色をクルマで楽しむ日と、歩いて文化に触れられる日がある
その後、高山、金沢、佐渡に渡り、裏磐梯、日光を経て、4月23日に埼玉の加須にあるワクイミュージアムに到着した。全行程に参加している日本のベントレードライバーズクラブのメンバーもいるが、何人かのクラブメンバーはここから合流し、蓼科、富士スピードウェイ、横浜までのゴールを目指す。
今回ワクイミュージアムに集結した30台のベントレーの姿はまさに圧巻のひと言であった。一番古いモデルは1923年製の「3リッター」だったが、エントラントリストを確認すると、1921年から1926年までに1622台製造された3リッターが6台、1927年から1931年までに製造された「4.5リッター」が7台、1926年から1930年までに182台製造された「スピードシックス」が3台、そしてW.Oの最終モデルで1930年から1931年までに100台しか製造されなかった「8リッター」も3台参加している。ワクイミュージアムに保管されているクルマも含めると、これほどまでにたくさんのW.Oを一度に見ることができる機会は、本国イギリスのイベントを含めても多くはないだろう。
100年経った今でも耐久性が証明されている
指定された駐車場に並べられたベントレーを見ると、一見同じように見えるモデルもホイールベースの長さであったり、ボンネットの高さであったり、ボディ形状が微妙に異なることがわかる。これはおそらくボディを製造するコーチビルダーごとの違いからくるのであろうが、そんな微妙な違いを見つけるのも面白い。
参加者はみんなとても気さくで快く自身のクルマの説明をしてくれた。
とくに印象的だったのは戦後の「マークVI」のシャシーに「8リッター」のエンジンを乗せ、1934年のダービー時代のシルバーのボディを架装したという1台だ。合計6台しか作られていないこの特別なクルマには、イギリス人の良い意味でのクレイジーさが凝縮されている。
およそ100年前に製造されたとは思えないピカピカのクラシックベントレーの横には、これまたピカピカのダービー時代のサイレントスポーツカーが並ぶ。ダービーベントレーとはロールス・ロイスに買収された1931年以降から戦前までの車両を指すが、小ぶりなボディに静かでなめらかなエンジンはW.Oとは対照的で、日本の道を走るのには最も適したクルマのように思える。やや新しく見えるものの、これでも90年近く前にあたる1930年代のモデルである。このラリーで20日間近く走りきってきたベントレーの堅牢さに驚く。
ベントレーはル・マン24時間レースで1920年代から1930年にかけて5度の優勝を果たしている。参加の目的は単なるスピード比べではなく、長い距離を走ることでの耐久性を証明するためであった。創業してすぐのベントレーがその性能を最も効率よく宣伝をする方法がレースだったというわけだ。
参加者に聞くと軽微なトラブルはあるものの皆このグランドツーリングを楽しまれているという。100年経ったいま再び、当時のベントレーの堅牢さが遠い日本で証明されている。
加須市のワクイミュージアムには、市長をはじめ、観光親善大使、そして多くのギャラリーが集まり、美しいクルマたちや、空気を震わすような力強いエンジンサウンドに囲まれ、まさに時代を超越した異空間の世界を楽しんだ。
ワクイミュージアムのファウンダーである涌井清春氏は、ミュージアムとは文化の継承を行う大事な役割を果たす場所であると日頃から語っている。今回、ラリー参加者もギャラリーもこの時間と空間を大いに楽しんでいる様子を見ると、その役割は十分に果たせているように感じた。
AMWノミカタ
ベントレードライバーズクラブとは1936年に設立された世界最古の自動車クラブである。ポイントはオーナーズクラブではなくドライバーズクラブ、つまり車庫でクルマを磨いているだけではなく、実際に走らせることに主眼をおいているクラブであるということだ。そのクラブの精神は、今回10カ国から30台の車両が集まり、遠い異国の地である日本でメンバーがドライビングを楽しんでいることでも正しく継承されていると思う。そしてベントレーは改めてドライビングカーであり、グランドツアラーだけを作り続けているメーカーであることを実感した。