夢の次世代エネルギー
カーライフエッセイスト吉田由美さんの「なんちゃってセレブなカーライフR」。今回は、岐阜県土岐市にある「核融合科学研究所」へ「オトナの社会科見学」に行ってきました。少し前から注目されている、夢の次世代エネルギー「核融合」とは一体どんなものなのでしょうか。
2024年度は軽水素で実験中
突然だけど、皆さんは、「核融合」ってご存じかしら? 少し前から注目されている、夢の次世代エネルギーなのよ! 簡単にいうと、水素のような軽い原子核同士を融合させて、もう少し重い別のヘリウムなどの原子核に変えて熱エネルギーを作るの。これは太陽で起きているような膨大なエネルギーを人の手で生み出し、発電などに使用する……ことを目指しているの。私たちが普段耳にする「原子力発電」は、原子炉でウランが「核分裂」を起こして熱を作るけど、「核融合」は同じ「核」という言葉が使われているけれどその反対で、エネルギーの取り出し方が違うのよ~。
核融合発電のメリットは、なんといっても海水などから採取された水素を使用するので枯渇の心配がなく、しかもわずか1gの水素から発生するエネルギーは石油8000t分! CO2(二酸化炭素)を排出しないので安全性も高いの。
ちなみに水素には自動車などに使う軽水素と、重水素、三重水素(トリチウム)の3種類があるけれど、去年までは重水素と三重水素を使用していたわ。2024年度は放射線の出ない軽水素で実験中よ。水素のデメリットは、超高温、超真空という特殊な環境が必要なため、莫大な予算がかかるらしいのよね~。また、技術的なハードルも高く、実用化は2040年代後半だとか……。まだ先の話ね。
じつはこの研究をわたくしの知人が行っていて、たまたま別の人たちとの会食で「核融合科学研究所へ見学に行く」という話題がのぼり、よく聞くとビンゴ! 見学の担当者はまさにわたくしの友人の旦那様、准教授の本島 厳氏ではないの~!
わたくしは核融合の話は10年以上前から聞いていて、研究所へ行きたいとは思っていたものの、なかなか実現せず。これまでオンライン見学会には参加したこともあるけど、思いがけずこんなタイミングで繋がるなんて、これも何かのご縁。というわけで、なんちゃってセレブらしく思いっきりコネを発揮して、その見学会に便乗させていただくことになったのよ~。というわけで、岐阜県土岐市の「核融合科学研究所」へ行ってきましたわ~(前フリ終わり)。
1998年から実験がスタート
核融合科学研究所の土地面積は46万4445平方メートル、建物の面積3万9203平方メートルと、広大な敷地を有しているわ。アクセスは多治見駅からバスで20分ぐらいよ。では核融合科学研究所へ潜入するわよ〜!
まずはじめに向かったのは制御室。2024年3月から新しい実験がスタートし、ここで運転状態の監視、調整、プラズマ計測のデータ処理などを行うの。かなり広く、席数も多いのだけど、大学共同利用機関のため100人もの人がここで研究を行っているの。1998年3月から核融合科学研究所での実験がスタートし、今までに行われたプラズマの実験は19万6回。ここでは3MW(メガワット)の電力量を使用しているわ。ドラマなどの撮影でもよく利用されていて、『下町ロケット』や『MIU404』などでも登場したのよ~。
制御室を出て、メインのプラズマを作る「大型ヘリカル装置(Large Helical Device)」のある実験室に行く前に、模型を使って仕組みの説明を受けたわ。プラズマは中が真空になっている直径13.5mのドーナツ型の装置の中で作られているわ。2本のねじれた超電導コイルを使用してプラズマを容器に閉じ込める「ヘリカル方式」が、ここ核融合科学研究所の特徴なの。
大型ヘリカル装置の総重量は1500t。そのうちの約半分の約850t以上は現在、超電導状態になっていて-269℃まで冷却されるわ。一方では1億°Cという超高温まで熱せられ、ここには大きな温度差があるのだけど、コイルを長く使うためにはコイルの温度を低く保つ必要があるの。超電導コイルでは電気抵抗がゼロになるため、1年間コイルに電流を流してもコイルがあたたまらないため継続して使用可能なのよ~。
いよいよメインの実験室へ
いよいよメインの実験室へ。ここに入るには、白衣とヘルメット、スリッパを着用し、放射線量測定装置を常備するわよ。実験室は広く、大型ヘリカル装置の周囲にプラズマを作ったり、温度を上げる「加熱装置」やヘリカルコイルに使われている超電導磁石を液体ヘリウムで冷やす「冷却措置」が設置されるわ。それと実験時に大型ヘリカル装置の中を宇宙と同じぐらいの真空状態にする「真空排気装置」があったわ。実験室の扉はギネスブックで世界一の重さのドアとして認定されていて、コンクリート製で厚さは2m、重量は720tもあるのよ〜。
なかなか興味深い「オトナの社会科見学」だったけど、技術的に強磁場で大型の伝導コイルが必要で、超低温と1億°Cを共存させる必要があったり、プラズマを浮かしながら燃やし続ける必要もあることが分かったわ。さらに燃料を閉じこめつつ排気ロケットノズル並みの熱処理が必要など、これらをすべてクリアにせねばならないの。そうそう、人材の育成もね。日本がこの分野でぜひリードして1日も早い実用化を期待しているわっ。なにしろ「夢の次世代エネルギー」ですもの! ちなみに核融合科学研究所では、施設見学を事前予約制で火曜日~金曜日に開催中よ。