ワンオフモデルにしてはリーズナブルだった?
2024年5月4日、ボナムズがマイアミで開催したオークションにおいてフェラーリ「SP30」が出品されました。2011年に発表されたSP30は、フェラーリ「599GTO」をベースに製作されたワンオフモデルで、エクステリアはもちろんインテリアも豪華に仕上がっていました。
約50年ぶりのワンオフモデルは日本人のオーダーからスタート
フェラーリのエンスージアストにとって究極の夢といえるものは何か。それは自分だけのための1台、すなわちワンオフモデルの製作を依頼し、デザインやドライビングを楽しむことだろう。実際にフェラーリの歴史を振り返ってみても、初期にはカスタマーの希望に応じて、フェラーリはさまざまなカロッツェリアの手からワンオフモデルを生み出していた。フェラーリはV型12気筒エンジンを核とするパワートレイン一式とフレームのみを製作し、ボディはカロッツェリアの手に委ねるという方式は、彼らにとって一般的なことだったのである。
だが1960年代を迎えると、フェラーリにも大量生産という目標が強いられることになる。さらに1970年代にはロードカー部門はフィアットに吸収され、それによって生産性の低いワンオフモデルの生産の可能性は、事実上消滅することになったのである。その意味ではフェラーリは、それまでのように融通の利かない普通の自動車メーカーに成り下がってしまったと表現してもよいだろう。
それでもフェラーリは、世界の特別なカスタマーに対しては、その希望を叶えるための別部門を秘密裏に維持していた。たとえばブルネイ王室のメンバーは、1980年代から1990年代にかけて、さまざまな特別仕様を要求するようになり、最も有名な例では当時の「456GT」をベースにセダン、カブリオレ、シューティングブレークという3タイプのボディを製作させた記録も残る。イギリスのロイヤル・ファミリーもまた同様の特別客だった。
長らく表舞台には現れなかったフェラーリのワンオフ部門が久々にニューモデルを発表──つまり、ワンオフモデルを新たなビジネスとしてフェラーリの頂点に位置づけるという決断を広く世界にアピールしたのは、2008年のこと。「SP1」と呼ばれる「F430」をベースとした、約50年ぶりの(フェラーリのコメントによる)ワンオフモデルは、日本のエンスージアストのオーダーによるもので、その後フェラーリは数々のワンオフモデルを製作してきた。
エアロパーツからは599XXのフォルムがうかがえる
今回出品された「SP30」は2011年に発表されたモデルだが、そのデビューにメディアのスポットライトがあたることはほとんどなかった。アラブ首長国連邦を拠点とするインド人カスタマーがそれを嫌ったというよりも、彼は納車の直後に巨額の債務不履行で現地当局と対立。SP30は差し押さえのうえ清算され、アメリカへと渡ったからだ。
ベースが「599GTO」という、それだけでも十分にコレクターズアイテムとなるSP30には、「458イタリア」のヘッドランプと「599」のテールランプが備えられ、ウイングレットとエアロパーツからは「599XX」のフォルムが想起させられる。ボンネットは後の「F12tdf」に大きな影響を与えたことは間違いないところだ。リアフェンダーのボトム部には、フェラーリ・デザインのエンブレムも備わっている。
インテリアのフィニッシュもワンオフモデルならではの豪華さだ。599GTOのシートやダッシュボード、ドアガードはグレーのアルカンターラで覆われ、レッドのカーボンファイバートリムやアクセントが、カーペットレスの処理とともに、このモデルのパフォーマンス・キャラクターをイメージさせている。フロントに搭載されるエンジンは、もちろん伝統のV型12気筒自然吸気。6Lの排気量から670psを発揮する。
参考までに現在までの走行距離はわずか121マイル(約194km)。ナビゲーション・スクリーンのプラスチック・フィルムに至るまで、新車同然のコンディションを保っている。それだけにはたしてSP30がどれだけの価格で落札されるのかには大きな注目が集まったが、やはりそのバリューは大きく、最終的な落札価格は229万6000ドル(邦貨換算約3億5000万円)という数字で落ち着いた。一説にはその製作には、数億円という予算が必要だというフェラーリのワンオフモデル。もしかするとこの落札価格は、けっして高いものではないのかもしれない。