S800のバルジは「飾り」だった!?
S800はその性能をさらに引き上げた。外観の特徴はやはりグリル。当時のデザイナー陣によると、フォード「マスタング」のグリルを参考にしたものだという。また、高性能の証のようにパワーバルジが装備されたが、あくまでも見た目重視のものだったようだ。1959年にホンダに入社し造形部に配属された宮澤 崇は、トライアンフ「TR4」に憧れ、バルジを装備させたがあくまでも飾りだったと述懐している。ほかに伝え聞いたのはキャブレターをクリアするためということだったが、どうやら後付けの理由のようだ。
当時のホンダはこうして本田宗一郎の夢を自分の夢として具現化する活力に満ちていた。1983年に開催された鈴鹿20周年イベントの折、本田宗一郎はかつて自らがドライブしレースをしたカーチス号で鈴鹿を走った。その乗り込みざま、「俺に乗れるかなぁ?」と真顔で私に向かって言われたように感じたが、どうやら隣にいた人に言ったようである。それでも活力のある甲高い声、そして射抜かれるような鋭い眼差しは今も忘れない。