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マクラーレン「750Sスパイダー」を関西まで長距離テスト! サーキットが真骨頂のクルマが提案する日常の楽しみ方とは

マクラーレン 750Sスパイダー:エアインテーク一体型のヘッドライトはフードに覆われた形状に変更された

車体との一体感が生み出すマジック

2シーターミッドシップのスーパーカーだけにこだわって開発を続けるマクラーレン。その中核モデル「750S」のスパイダーを、今回はサーキットではなく一般道での長距離テストに連れ出しました。サーキットでは「765LT」に迫るパフォーマンスを実感できた「750S スパイダー」ですが、日常の使い勝手はどうなのでしょうか?

スーパーカー離れした街乗りの心地よさ

いつだってスーパーカーの、しかも最新モデルのロングドライブとなると、まるで遠足前夜の子どものように出発前夜からワクワクするものだ。しかも今回はクローズドサーキットでクーペを試したすぐ後に同じモデルの「750S」を借りて走ることになった。高性能車好きなら気持ちが昂らないという方がおかしい。日本に上陸したばかりの「750Sスパイダー」を借り受けて京都を目指す。オドメーターはまだ1000kmにも達していない。ウォーミングアップを兼ねてのロングドライブテストとなった。

今となっては2シーターミッドシップのスーパーカーだけを生産する唯一の年産1000台以上ブランドとなったマクラーレン。なかでも「750S」はその中核となるスーパーシリーズの第2世代“後期モデル”で、2023年夏に日本デビューを果たしたモデルだ。マクラーレンにとって、ロードカービジネスの原点となったのが2011年デビューの「MP4-12C」であり、その第2世代が前期モデルの「720S」、そして最新となったのがこの「750S」というわけだった。

車名の数字がエンジンの最高出力を表す。つまり30psアップとなったが、その間に高性能グレードの「765LT」(ロングテール)が存在するから、同じエンジンを積んでいることを考えると“750”はリーズナブルな落とし所のように思える。

実際に750Sには765LT(や「セナ」)の知見が、エンジン性能のみならず広範囲において活かされている。誤解を恐れずにいって、750Sはロードユースを主眼においた765LTのリファイン版である。事実、サーキットでは765LTに迫るパフォーマンスを実感することができた。お次は日常での使い勝手を検証しようというわけだ。

強固なカーボンボディ&シャシーをもつマクラーレンだから、畳1枚分の面積にも満たないルーフパネルを外したところで、その剛性感には微塵のかげりもない。相変わらず街乗りの心地よさはスーパーカー離れしているが、硬いボディあってこそ足まわりは安心して自分の仕事に専念できているというわけだ。

前足の動きがより鮮やかに感じる。ステアリングレシオが早くなり、トレッドも広がった。それでいてクイックすぎる動きに感じないのは微妙にアシの硬さを緩めているからだろう。今まで以上にキビキビとノーズは向きを変えるのに、扱いやすさに変わりなし。意のままに動くぶん、かえって扱いやすい。

エキゾーストサウンドが耳に心地よい

高速道路に入る。料金所からの軽いダッシュが胸をすく。余裕のトルクが軽量な車体をまるで波に乗せるようにして沖(=前)へと押し出していく。もっともそこはウォーキング製スーパーカーなら初代の「12C」から共通する魅力で、第2世代スーパーシリーズの後期モデルが圧倒的に従来のモデル群を上回っているのは、エキゾーストサウンドが耳に心地よいことだった。

高速クルージングの安定感もまた心なしか向上したように思う。エアロダイナミクスをさらに煮詰めたことはもちろん、足まわりの改良に合わせて制御もいっそうきめ細やかになったことが効いている。本当に安楽なグランドツーリングカーである。

そして、高速走行中の魅力といえばやはり、劇的な追い越し加速だった。これもまたマクラーレンの得意とするところで、パシーンと鞭打たれた馬のようなレスポンスと、どこまでも持続しそうな加速フィールは、このパッケージでないと味わえない。加えて、ドライバーの腰とリアセクションとの一体感が一層綿密で、ドライバーごと綺麗に移動できるという感覚が常にある。だから心地よいし、疲れないのだ。

クローズドコースで堪能した制動力も、公道ではペダル半分の踏みで十二分に手応えがあり、コントロールもしやすい。プロ対応レベルの高性能を扱いやすく民主化して搭載する手腕という点でマクラーレンは今、もっとも先に進んでいるブランドのひとつだといっていいだろう。

筆者がもっとも感動したのは、だらだらとした流れのなかにあっても750Sは恐ろしく従順で、しかもドライバーの気持ちを穏やかに保つことができるという点だった。妙に急かさないというか、進みの遅さによる苛立ちを抑えてくれるというか、とにかく“同志感”が半端ない。これもまた車体との一体感の生み出すマジックだろう。否、英国車にはよくある“落ち着き”とでも言おうか。

もちろん、このクルマの真骨頂はサーキットにあり、スポーツ走行にある。けれども日常的にそんなことをいつも味わってはいられない。アクセルもブレーキもせいぜい“5分の1”という移動生活が大半だ。そんな状況にあっても、マシンとの一体感を通じてドライバーを気持ちよくさせてくれる。スーパーカーの新たな楽しみを提案するという点でも、今乗っておくべき1台だと思う。

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