2バルブ・エンジンの究極の仕様
1926年後半に登場した「タイプ35TC」はタルガ・コンプレッサーの名を冠し、1927年には「タイプ35B」へと進化した。ラジエターとカウリングを大型化して冷却性能を高めた「ミラマス」仕様で知られるこのエンジンは、最高出力130psを発生し、最高時速205km/hを超えた。
その後、さらに開発が進められ、1930年後半には、タイプ35Bはツインカム、2バルブ・エンジンの究極の仕様とされるまでに進化した。さらに、ツインフューエル・フィラーキャップ、アップグレードされたサスペンション、ホイール、ブレーキ、タイヤ、下方にマウントされるスーパーチャージャーのリリーフバルブなどが採用された。ブガッティは、究極のパフォーマンスを追求するために細部に至るまで妥協を許さず、ピストンやシリンダーヘッドの造形、さらには140psの出力を実現するためのエアログレードの燃料の使用など、エンジンの燃焼システムのあらゆる要素を微調整した。
今日、モルスハイムにあるブガッティ・アトリエでは、エットーレがタイプ35の細部に施したのと同じ精度で、すべてのブガッティ・モデルが手作業で組み立てられている。1世紀を経た今も、ブガッティのデザイナーとエンジニアは、世界最高の自動車を開発するために、並々ならぬ努力を続けている。
AMWノミカタ
ベントレーの創始者W.O.ベントレーが初の3Lモデルを発表した際に、エットーレ・ブガッティはこのクルマを「世界一速いトラック」と評したという逸話がある。たしかに同世代のベントレーと見比べると、タイプ35ははるかにコンパクトで軽く、いかにも高性能なクルマに見える。
しかしこの言葉の裏にはアルミニウムピストン、4つのバルブを駆動するオーバーヘッドカムシャフト、ツインスパークプラグ、デュアルキャブレターなど最新の技術を採用したベントレーに対するいささかの嫉妬心もあったのではないだろうか。こんなところにも「ル・パトロン(親方)」としての技術者魂を垣間見ることができる。