HDRSでは初のウェット路面で開催
機能障がいを持つ人でもしっかりサーキットでの走行を楽しみ、そしてレース参戦も視野にステップアップを図っていこうという企画である「HDRS(ハンド・ドライブ・レーシング・スクール)」が、2024年度最初のスクールを開催しました。今回は3名と参加者は少なかったものの、その分いつも以上に内容の充実した1日となりました。
障がい者でもレースを楽しむ
HDRS(ハンド・ドライブ・レーシング・スクール)は、一般社団法人国際スポーツアビリティ協会が主催し、車いすレーサーである青木拓磨氏が校長を務め、プロドライバーが講師としてサポートをしているスクールである。千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイで年に数回開催しているが、今回はスーパー耐久シリーズに参戦している山田 亮選手が講師を務めている。
世界最高峰となる2輪ロードレース世界選手権(WGP)に1997年から参戦を開始したものの、その翌シーズン開幕直前にGPマシンのテスト中の事故によって脊髄を損傷し、車いす生活を余儀なくされた青木拓磨氏。そんな彼が、4輪に転向してからは様々なカテゴリーの4輪レースに参戦を続けてきているわけだが、そのレース活動の経験をフィードバックし、具体的にマン・ツー・マンでドライビングの指導をしていくのである。
モータースポーツは、自身の身体能力の先にデバイスがあり、健常者・障がい者が分け隔てなく楽しめるスポーツであるということから、障がいを持っていてもサーキット走行を楽しんでいこうという趣旨のもと、このスクールを開催している。障害者手帳付帯者については大幅な割引があるのが特徴で、もちろん、障がいを持っていなくても、健常者でも参加が可能だ。
レーシングスクールという名がついているものの、その内容は、機能障がいがある中でいかにきちんとした乗車姿勢を保ち、しっかり車両の運転をするかというところに注目。障がいによっては乗車姿勢が異なってくることから、それぞれのドライバーに合わせて、どう身体を固定しクルマの挙動に対しても着座姿勢を保持して、車両操作に集中できる環境を作れるかを直接指導している。
参加者それぞれが普段使用している車両を持ち込むわけだが、ドライビングテクニック以前の、こういった細かなアドバイスが有効であったりするという。
スケジュールは午前中に広場(パドック)を使用してのスラローム走行と急ブレーキ体験を行う。ここでステアリング操作、ブレーキング、アクセルコントロールなど、基本的なドライビングテクニックを実践し、自身のクルマの挙動を確認するレッスンが行われ、昼に実際にサーキットのコースでの先導走行、そして午後に3本の走行枠が用意されている。
また、助手席で同乗して走行を体験できる「サーキットタクシー」なども用意。さらにはハンドドライブユニットを装着したレース車両のレンタルも可能。グイドシンプレックス手動装置付き車(日産マーチニスモ)のレンタルも可能である。
初参加の2名と参加2回目の1名がサーキットを走る
小山博幸さんは、バイクの事故で頸の神経根引抜き損傷により、肩から下の左腕が全く動かすことができず感覚もほとんどない状態である。
「HDRSについては以前から知っていたんですが、ひと月前に、ある走行会に参加することとなって、それがすごく楽しかったので、もっとサーキットを走行する機会を増やしたいと思って参加しました。初めての走行会の後、この車両のままでは……ということで、今回は足まわりとタイヤも変更してきました」
小形 希さんも2015年の夏にバイクの事故で脊椎を損傷。みぞおちから下の完全麻痺だという。この3月にサーキットデビューをし、これまで本庄サーキット、富士スピードウェイと走ってきて、今回が3回目のサーキット走行である。
「走るのが楽しいのでこれからもどんどん走っていきたい」
と思い、知人の紹介でこのHDRSにたどり着き、今回の参加となった。
この日の天候は朝から雨が降ったり止んだりの状態。ただ、午後にかけて天候は回復していくという予報だった。青木氏はブリーフィングでこの日のコンディションを解説していた。
「ウエット路面なのでクルマの挙動を知ることができるいいチャンス。午後にかけて路面コンディションはドライに変わっていくので、一度でいろんなシチュエーションを試すことができるまたとないチャンスです。一般公道での走行でも役立つスキルを身に付けてほしい」
スキーのジャンプ事故で腰椎損傷、下半身不全麻痺の芹澤 輝さんは、チェアスキーやカヌーを楽しんでいる。今回2回目の参加となったHDRSでは初のウエット路面で次のようにコメント。
「クルマの限界が低くなることがよくわかりました。路面の状況の変化に合わせてタイヤの空気圧を下げて行ったり、いろいろと探ることができました。これから足まわりの変更をしたいですし、いろいろやりたいですね」
ホンダN-ONEカップにHDRSとして青木拓磨参戦へ
この日も先導走行に使用されたホンダ「N-ONE」だが、これは、参加型の入門レースとして位置づけられるナンバー付きワンメイクレース「N-ONE OWNER’S CUP」仕様車で、実際に2016年シーズンから2019年シーズンまで、車いすドライバーの青木氏が、健常者とともに競った車両である。
車両には、ステアリングワンハンドコントロールシステム(ステアリング脇にあるレバーを押し下げることでアクセル、前方へ押し込むことでブレーキとなる。通常はブレーキ操作でアクセルはオフとなるのだが、レース用にアクセルがオフにならないようプログラム変更している)をインストールしている。
「前回の参戦から5年も経っているのにまだ参戦ができるんです。N-ONEのレースってコスパの高いレースですよね。今回は、機能障がいを持ったHDRSの参加者でもこの車両を使ってレースへステップアップできるよってことを実証したくて参戦を決めました」
青木拓磨氏が参戦するN-ONE OWNER’S CUP第3戦は5月18日(土)に、大分県にあるオートポリスで開催となる。また、HDRSは次回7月10日(水)に千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催予定だ。