なんとピンクは純正カラーだった
V12エンジンを搭載したシリーズIIIは、カリスマ的な人気を誇るジャガーEタイプの最終モデルとなり、1975年の生産終了時までに1万5000台以上が生産されたといわれる。
このほどボナムズ「グッドウッド・メンバーズミーティング・オークション」に出品されたこのEタイプV12ロードスターは、1973年に生産された右ハンドル仕様のオートマティック車。シャシーナンバーは「1S1779BW」である。
「ヘザー(Heather)」と名づけられた、独特の渋みのあるピンクという個性的な純正ボディカラーに、マッチする赤いレザーのインテリア。グロスブラックにペイントされた、純正のハードトップも組み合わせられる。また、シリーズIII時代にはオプションとなっていたセンターロックのワイヤホイールも装備されている。
2010年3月のボナムズ「オックスフォード・セール」にて落札・販売されて以来、日々のメンテナンスは現オーナーお抱えのチームが担当し、手入れは行き届いているという。
新車として登録されたのち、走行距離はわずか2万7000マイル(約4万3000km)という、年式を考慮すればかなりのローマイレージ。2005年に施されたボディおよびペイントのレストアの恩恵を受けて、今なお非常にオリジナルなコンディションを保っていることは、ボナムズの公式ウェブカタログの写真からも判定できる。
ただし、残念なことに新車以来のヒストリーファイルは、オーナーの引っ越しの際に紛失されてしまったそうだが、少なくとも前オーナーからの書類は残っており、走行距離と所有者の記録が確認できるとのことであった。
じつをいえばこのEタイプは、2023年9月に開催されたボナムズ「グッドウッド・リヴァイヴァル・セール」でも出品され、その際にも落札されていた。ところが、そのセールの落札者は購入を完了することができなかったそうで、昨年のグッドウッドで興味を示しつつも落札できなかった多くのコレクターに新たな機会を提供するもの……とボナムズ社ではアピールしていた。
したがって、エスティメート(推定落札価格)も4万5000ポンドから5万5000ポンドという、前回と同じ金額が設定されたのだが、2024年4月14日に行われた競売では、手数料を含めればエスティメート上限を大きく超える6万3250ポンド、つまり日本円にして約1320万円で、競売人の掌中のハンマーが鳴らされることになったのだ。
今世紀初頭までの常識では、ジャガーEタイプといえば初期の6気筒こそが至高で、古ければ古いほど価値も高いとみなされていたことをご記憶の方も多いだろう。しかし、近ごろの国際クラシックカー・マーケットでは、V12モデルは6気筒モデルとは別物の魅力を持つモデルとして再評価されているようで、シリーズIIよりはシリーズIIIのほうが高値で取引される事例も多々見られる。
今回のオークション出品車のような好みの分かれるカラーの仕立てであっても、あるいはAT仕様であっても一定以上の評価が下されたのは、そんなマーケットトレンドの表れとも感じられたのである。