内装もメカニズムも本格的なつくり
このミニ クーパーSワークス・レクリエーションの本気のレストアは、有名な「モンテ・プレート」と「177」のゼッケンで飾られた外観だけにはとどまらない。
インテリアでは、当時モノスペックで新造された「ジョン・アレイ」社製3点式ロールケージが装着され、手縫いのロールバーパッドとナックルパッド、オリジナル「LBL 6D」と同じ「アーヴィン」社製シートベルトが装着されている。
こちらも当時と同じ様式のドライバーズシートは、有名な赤とグレーのクロスで縁取られたバケット型。古い形状のジュビリークリップのつく運転席のシートフレームまで、当時と同じスペックである。また、ワークス・ミニでは珍しかったカージャッキも、運転席の後ろに取りつけられた。
いっぽう、ナビゲーターシートは座面を厚くしたほか、当時の市販ミニのようなゴム製ダイヤフラムではなく、合金製シートベースが採用されている。またドアやロック周辺、「Bポスト」にも安全パッドが施されているが、これらはすべてオリジナルの「LBL 6D」からコピーされたものである。
さらにはリアシートも、当時のワークスカーを完全再現。バックレストのみは赤とゴールドのブロケードが施された当時のスタンダードが残されているが、座面は取り去りスペアタイヤやオリジナルと同じ燃料ポンプが配置された。
またリアシェルフには、当時のワークス用を再現したヘルメットとヘルメットピン、ロール型のツールキット、リアシート用のレザーストラップが装備されている。
くわえて、現在でも新品が入手可能な「ホイヤー」社製ラリークロックと、メタルケース入りの「ハルダ」社製ラリーメーターが取り付けられ、当時のものと同じ毛細管式水量計と200km/hスケールのトリップメーターつき速度計も取り付けられている。
そして肝心のパワーユニットもまた、当時のワークスカーと同じ1293ccスペック。「ビル・リチャーズ・レーシング」によってワークスラリー仕様にリビルトされている。ツインのSUキャブレターが燃料供給するこのエンジンは、リビルド後の走行距離が1000マイル(約1600km)に満たないうえに、1マイル(約1.6km)さえ本気のスピードで走ってはいないとのことである。
つい最近にもメインテナンスとチューニングを受け、始動も走行もスムーズという。ビル・リチャーズによって組み直されたギアボックスは「クアイフ」社製の4速MTで、現在はより使いやすい3.6:1のファイナルドライブが取り付けられている。
完成後には、2010年頃から現オーナーのプライベートコレクションの一角を占め、イギリス各地のクラシックカーおよびラリーカーのイベントで展示されたほか、2011年にはモンテカルロ・ラリーの100周年記念を特別テーマとした独「エッセン・モーターフェア」にも招待を受け、「LBL 6D」の模造ナンバープレートを装着して、ほかのラリーの名車たちとともにステージを飾っている。
今回のオークション出品にあたっては、製作の詳細や経費のインボイス、製作中の写真、英国の車検証にあたる「MoT」、メンテナンスのインボイスなどを収めた3つのフォルダーと、エンジンのスペックやセッティングなどの詳細を記した、別のフォルダーが添付されていた。
まさしく「レクリエーション」レベルで製作された、このミニ クーパーSモンテカルロ・ラリー仕様レプリカに、ボナムズ・オークション社では3万~4万英ポンドというエスティメート(推定落札価格)を設定。そして2024年4月14日に行われた競売では、3万9100英ポンド、日本円に換算すると約765万円で落札されることになった。
このハンマープライスは、モーリス/オースティン ミニ クーパーSマーク1の極上物であれば、ノーマル車両でも叩き出すことのできる価格。推定されるレクリエーション製作費を思えば、かなりリーズナブルにも感じられたのである。