F1マシンに装着されたHaloを採用
ゴールデンウィークに富士スピードウェイで開催された「SUPER GT(スーパーGT)」の第2戦富士は、2日で合計8万8400人の観客を動員。例年にも増しての大盛況となっていました。そんなスーパーGTのサポートイベントとして2日間で2レースが開催された「2024 FIA-F4選手権」は、これがシーズン開幕ラウンドでした。日本国内では2015年に始まったFIA-F4は、2023年までは童夢で製作された童夢製の「F110」が使用されてきましたが、2024年から第2世代となる「MCS4-24・TMA43」に切り替えられました。今回はマシンの設計から開発、そして製造までを担当した東レ・カーボンマジック(TCM)代表取締役社長の奥 明栄氏にインタビュー。シャシー開発の苦労話などをお聞きしました。
開幕戦からフルグリッドの新世代FIA-F4
MCS4-24はTCMが製造するものですが、シャシー関係の開発を担当するTCMと、空力(カウルワーク)関係を担当するムーンクラフトが共同で開発したモデルで、MCSの名は旧くからのレースファンにはお馴染みのムーンクラフトスペシャルにちなんでいます。
シャシーはTCMで設計され、東レ・カーボンマジック・タイランドで生産されたカーボンコンポジット製モノコックタブにトムス製のエンジン、2L直4ツインカムのTMA43を搭載して戸田レーシング製のパドルシフト式6速ミッションが組み合わされているのです。そしてダンロップタイヤやTWSホイールなど、多くの国産パーツが共通部品として採用されています。
もちろん国産パーツだけではなく海外製のパーツも使用することになります。それはFIA-F4にはFIAで決定したコストキャップと呼ばれる市販価格の制限があるからです。ちなみにMCS4-24の販売価格はベース車両、装着義務パーツ類、組立費用を含めて1台1199万円(消費税込)となり、エンジンに関しては、2回のOH費用を含めて1年間/151万8000円(消費税込)のトムスとのリース契約が必要となっています。
開幕戦には37台の車両が出走
この販売価格を実現するために、国産パーツでは手に入れられなかったり、あるいは高価になり過ぎたりすることから、外国製のパーツを輸入する必要があるのです。奥氏によると、リアウイングの翼端板に装着している高機能リアライト(レインライト)は、FIAの規定に則ったパーツとして、イタリア製など2種類のパーツしか存在しておらず、世界中から引っ張り蛸となっていて、確保するのが大変だったそう。またブレーキも規定で前後ともに4ポッドキャリパーが義務付けられていますが、これもルノーの市販車用が最も安価に手に入るようで、こちらも品薄となって手に入れるのが大変だったようです。
こうした大小さまざまなパーツを集めてTCMで組み立てることになるのですが、驚かされたのは開幕ラウンドにチャンピオン・クラスとインディペンデント・クラス合わせて37台が出場。つまり開幕戦までに37台は完成し、オーナーのもとに納車されていたのです。その辺りにもTCMの実力が顕れていると言ってよいでしょう。
奥氏によると、パーツの手配は2023年の4月ごろに始まり、タイでモノコックの生産に取り掛かったのは7月からで、8月に1台のモノコックが完成したのを皮切りに、3台の型を使って生産していったそう。これに関しては「タイの方で頑張ってくれた(奥氏談)」ことで順調に製作が進められたようですが、前述したように一部のパーツの手配に手間取ったとも。それでも当初35台とされていた初期ロットを40台に引き上げて製作を進め、開幕戦には37台の車両が出走し、無事に開幕戦のスタートが切られています。
安全性が大きく引き上げられたことが、MCS4-24の大きな特徴のひとつとなっています。ドライバーの頭部保護の観点からF1GPマシンなどでは以前から装着されていたHalo(ハロ。ハローあるいはヘイローとも)が新たに装着されたことは一見して分かりますが、クルマに近寄って観察していくと前後サスペンションの上下のアームにワイヤーが取り付けられているのが分かります。
これはフェザー・ワイヤーといってマシンがクラッシュしてサスペンションが壊れた場合でも、折れたサスペンションアームと一緒にタイヤ/ホイールやハブ/アップライトなどが外れて飛んで行かないようにした装置で、FIA-F4に関しては第2世代のMCS4-24で初めて装着されたものです。さらにクラッシャブルストラクチャーと呼ばれる構造体が装着され、クラッシュした際に衝突のエネルギーを吸収してドライバーを守るようになっています。