ラグジュアリーなオープン・ドライブが楽しめるエルバ
マクラーレンが2019年に発表した「エルバ」は、生産台数249台という希少なハイパーカーです。なんとそのエルバのシャシーナンバー「001」の個体が、RMサザビーズがモナコで開催したオークションに出品されました。しかも走行距離が8kmという極めて新車に近いコンディションの1台の詳細をお伝えします。
エクステリアデザインはスパルタンそのもの
マクラーレン・オートモーティブから、「エルバ」と呼ばれるオープン・トップのスーパースポーツが発表されたのは2019年のことだった。当時マクラーレンはプロダクト・ポートフォリオを、限定生産を前提とする「アルティメット」、ラインアップのコアとなる「スーパー」、そしてエントリーモデルともいえる「スポーツ」の3シリーズに分けていたが、エルバはその中では最も高性能かつ高価なアルティメット・シリーズに誕生した新作であり、また初のオープントップモデルでもあった。
エルバとは、マクラーレンにとって歴史の中で大きな役割を果たした名前だ。それはマクラーレンの創始者であるブルース・マクラーレンが、1964年から1967年にかけて開発したオープントップのレーシングカー、「M1A」、「M2B」、「M3B」に由来するもので、その製作を同じイギリスのエルバ社に委託していたことで知られる。同時にそれはフランス語では「elle va(彼女が行く)」との意味を持つというから、そのバックグラウンドにはなかなかにロマンチックな雰囲気も漂う。
現代に復活したエルバは、普通にオープントップモデルという言葉から想像するよりは、はるかにスパルタンな造形を持つマシンだ。どちらかといえば一切の無駄を廃したデザインコンセプトは、スピードスターと呼ぶにふさわしく、同時にモノコックやボディ全体をカーボンファイバー製とすることで、徹底的な軽量化が図られている。エルバが正式発表された段階では、マクラーレンは車重を明確にしなかったが、それは乾燥重量で1148kgという驚異的な数字であることがのちに発表されている。
エクステリア・デザインはじつにスパルタンだ。ルーフはもとより、フロントウインドウさえ持たない(のちにオプションでコンパクトな固定式フロントウインドウが設定された)スタイルを実現するために、マクラーレンは特許技術となる「アクティブ・エア・マネージメント」を採用した。これはフロントノーズから導入されたエアを、コクピット前方のクラムシェルから排出することで、コックピット周辺にエアのバブルを形成する。それによって走行中の快適性が保護されるシステムと考えることができる。
当初は399台生産される予定だったが……
ミッドに搭載されるエンジンは、4LのV型8気筒ツインターボ。最高出力は815ps、最大トルクは800Nmを発揮し、0-100km/hを2.8秒で加速する運動性能を実現する。生産台数はデビュー当初は399台に限定されるとアナウンスされていたが、コロナ禍の影響によって249台にまで縮小。当時の新車価格はイギリス本国においては税込みで142万5000ポンド(邦貨換算約2億1660万円)と設定されていた。そして今回、「001」のシャシーナンバーを持つ貴重なモデルが、2024年5月10日に開催されたRMサザビーズのモナコ・オークションに姿を現したのだ。
このシャシーナンバー「001」のエルバには、完成後MSO(マクラーレン・スペシャル・オペレーションズ)の手でさまざまなプログラムが施され、実際にマクラーレンから依頼主であるマクラーレン・ウィーンに出荷されたのは2022年のことであったという。MSO独自のサテン・キロ・グレーのボディカラーに、ジェット・ブラックのセミアニリンレザーとブロンズのディテールをコクピットに採用したフィニッシュは、さらに戦闘的な雰囲気をこのエルバに醸し出している。走行距離はわずかに8kmと、こちらも新車に限りなく近い数字である。
マクラーレン・ウィーンが、このエルバのためにマクラーレンに支払った総額は、じつに151万5301ユーロ(邦貨換算約2億5400万円)。当然それは今回のモナコ・オークションでも主役の1台で110万〜150万ユーロのエスティメートがつけられていたが、残念ながら落札に至ることはなく、現在もRMサザビーズを通じて、価格応談のまま販売が継続されている。マクラーレンのアルティメット・シリーズの中でも、もっとも過激な、そしてシーンによってはラグジュアリーなオープン・ドライブが楽しめるエルバ。そのシャシーナンバー「001」は、これからどのような運命を歩んでいくのだろうか。