上質で高級感を表現したソファ
サードウェーブコーヒーブームはもちろんのこと、いま若者たちの間で空前のブームとなっているのが昭和レトロな純喫茶店です。数年前は行列に並ぶことなく入店できたのに、いまやZ世代の若者たちが大勢並んで待っているということもあり、諦めることもしばしば……。そんな昭和レトロな純喫茶というと、肌触りのいい、高級感のあるソファを連想することでしょう。それは純喫茶だけでなく、当時のクルマにも採用されていました。
もともとはアメリカ車にみられたスタイル
今どきの「お茶をする場所」というと、シアトル系の某コーヒーショップが思い浮かぶ。小綺麗なインテリアでもちろん全席禁煙、カウンター、ソファ、テラスと席もいろいろ。そこを訪れる人たちといえば、リンゴのマークのノートPCをテーブルの上に広げるのが半ばお約束で、Wi-Fiで繋いで、ネットサーフィンやらノマドワークの原稿書き(?)やら、思い思いの時間の使い方をしている。
転じて昭和な喫茶店は、ずいぶんイメージが違った。カウベルの鳴る音、夏場ならアイスコーヒーが入った汗をかいた銅のタンブラー、ランチタイムのナポリタンと紙ナプキンにくるまれたフォーク&スプーン、BGMで流していたさだまさしetc……。筆者も学生時代に長く喫茶店でアルバイトをしていたからよく覚えているが、今のコーヒーショップにはない温かみがあった、そんな気もする。
そしてもうひとつ、昭和の純喫茶(やラウンジ)というと連想するのがソファだ。筆者がアルバイトをしていた店の椅子はたしか茶色のビニールレザーだったが、昭和な純喫茶というとしばしば見られたのがモケット地のソファ。モケットとは表面に短く柔らかい毛をビッシリと立たせて作られた布地のこと。フカッとしたクッションとの組み合わせと、しっとりとした表皮とで、当時としては上質で高級感を表現したソファだった。
その雰囲気は、一時期のクルマでも数多く採用された。もともとはアメリカ車にみられたスタイルだったが、一例としてリンカーン「コンチネンタル マークVI」と、時代は前後するがキャデラック「フリートウッド・エレガンス」のカタログを画像ギャラリーでご紹介しておこう。それから日本車でも、同様の設えのシートを採用したクルマが続々と登場したのだ。
息をのむほどの高密度な室内空間
代表的な車種として、まず日産「ローレル」が挙げられる。カタログでいくつか見ていくと、3代目(C230型)ではボタン留めをしたルーズクッション風のシート。写真は2800SGLのものだが、当時、クルマでここまでやるのか! と話題になった。ローレルはハイオーナーカーの元祖でもあり、初の4ドアハードトップの導入に合わせてチカラの入った企画だったのだろう。C230型後期や5代目(C32型)でも、デザインを変えながら同様のシートが設定された。
もう1車種、同じ日産車の「セドリック」/「グロリア」(Y30型)のシートも、前出のローレルよりも上級クラスのクルマだっただけに、なかなかのゴージャスぶり。写真はグロリアの4ドアハードトップV30ターボ(とセドリック 4ドアハードトップV30Eブロアム)のものだが、よく見ると柄入りの表皮で、それをダイヤ柄に織り込んで仕上げている。なんとも重厚な色合いと趣で、同世代のセドリックも色合いは共通しているが、グロリアとは別のパターンで仕立てられていた。
一方で、これぞ昭和な純喫茶&ラウンジのイメージだったのがトヨタ「マークII」。写真のカタログは1984年に登場した5代目の4ドアハードトップのものだが、ワインレッド(バーガンディなどと呼ぶ人もいた)の鮮烈な色と、ルーズクッション風のシートパターンは、これもまたゴージャスぶりがストレートに伝わってくる。インパネはじめ内装のトリム類も同系色でまとめられ、息が詰まる……、いや、息をのむほどの高密度な室内空間になっていた。ちなみに内装色はグレードによってブラウン、グレーなども用意があった。