純ICEのゴルフGTIを味わうならこの世代がラストチャンス?
AMW編集部員がリレー形式で1台のクルマを試乗する「AMWリレーインプレ」。今回のお題は2021年12月に日本へ導入されたフォルクスワーゲンの8代目「ゴルフGTI」です。2年ぶりにじっくり乗った筆者は、内燃機関(ICE)のFFホットハッチの本家本元である「GTI」の魅力を今さらながらに、または今だからこそ、再発見することができました。
電動化の波が押し寄せる今、あらためてじっくり乗ってみた
2022年の春頃、日本上陸してまだ間もないVWの現行型8代目「ゴルフGTI」に乗らせてもらったときの正直な感想は、「すごく高性能で速いけど、もはや日本の公道でその真価を味わえる機会はめったにないのでは……?」だった。
8代目ゴルフそのもののシャシー性能が高くなっていたうえ、GTIと同時に導入された2.0L直4ディーゼルターボの「ゴルフTDI」でも最高出力150ps/最大トルク370Nmという太いトルクを誇る仕様で、これがまたワインディングでも十二分に速いのだ。さらに2022年10月には「史上最強ゴルフ」として、320ps/420Nmまでパワーアップされた2.0L直4ガソリンターボ4WDを与えられた現行型「ゴルフR」が投入され、日常シーンではしっとり落ち着いた「大人な」乗り味、本気で踏み始めると正気を疑うほどの「大人げない」(ほめ言葉)走りが炸裂する二面性を持ち合わせ、VW製ホットハッチの頂点に君臨することとなった。
では、245ps/370Nmの2.0L直4ガソリンターボエンジンを積むゴルフGTIを選ぶべき(予算以外の)理由は? 当時は個人的に、いまひとつピンとこなかったものだが、今回2年ぶりにじっくり乗る機会を得て、過去のおのれの不明を深く恥じる結果となった。さまざまなクルマに乗って多少は経験値が増えたこともあるが、各社のBEVやPHEVなど電動化モデルに触れることが増えたなか、マイルドハイブリッドでもない「古風な」純ICE車であるゴルフGTIの立ち位置が変化してきたという背景もありそうだ。
音も振動も、アナログな感触がなんとも愛おしい
都内でゴルフGTIを受け取りSTARTボタンを押すとエンジンが始動し、左右2本出しマフラーが奏でる「ブロロロ」っというエキゾーストノートは「コンフォート」モードでもなかなかよく響き、「スポーツ」モードではさらに太く轟く。やはり前世紀生まれのクルマ好きとしては、この演出だけでも気分が盛り上がってしまう。
試乗車はオプションの「DCCパッケージ」(23万1000円/消費税込)を装備していて、ホイールは標準より1インチ大きい19インチ、タイヤは235/35R19を履くが、街乗りでの乗り心地に角はない。アダプティブシャシーコントロールのDCCでは「カスタム」モードでダンパーの減衰力を15段階で調整でき、コンフォートモードより低い方に3段階、スポーツモードより硬い方に3段階が用意されている。コンフォートのままでもホットハッチとしてはマイルドな乗り心地だが、もちろん素のゴルフよりは硬めなので、同乗者がいるときはもっと足を柔らかくするのもありだろう。
今回は終始1人でドライブしたので基本的にずっとスポーツモード。現行ゴルフではインフォテインメントやACC(追従式クルーズコントロール)などのADAS(先進運転支援システム)も非常に優秀といえるレベルへ進化しているのだけれども、それらを一切使うことはなかった。パワフルなエンジンに響きわたるエキゾーストノートに硬めの足。音も振動も、アナログな感触がなんとも愛おしく、ずっと味わっていられる。
電子制御LSDがFFホットハッチの俊敏さをさらにアップ
地元のワインディングに行ってみれば、何もかも意のままにクイックに操ることができてしかも安心感も備える、ゴルフGTIの走りはひたすら気持ちいい。7速DSG(デュアルクラッチ)はマニュアルモードで操作しても迅速なシフトチェンジをするし、赤いアクセントが入ったタータンチェックのGTI専用シートは強めの横Gをかけても体幹部と脇腹をしっかりホールドしてくれる。
2.0Lエンジンはベタ踏みすればレッドゾーンの6500rpmまですぐ吹け上がるが、3000~4000rpmでも太いトルクを安定して発揮するし、ブレーキもまた、踏み始めから奥の方までしっかり分厚い制動力が頼もしい。
今回の試乗でとくに感動したのが、ゴルフGTIにのみ装備される「電子制御油圧式フロントディファレンシャルロック」、いわゆる電子制御LSD。これは先代ゴルフ7ではGTIの限定モデルにだけ用意されていたのが現行型GTIでは標準装備となっている。
思えば2年前は、昔ながらのFF車の常識のまま、コーナリング中にアクセルを強く踏み込んだりしなかったので、電子制御LSDの恩恵を味わうことがなかったわけだ。そこで今回、コーナリング中にこわごわとスロットルを開いていくと、グリップを失う気配もなくスイスイっと気持ちよく旋回していく。もとより限界を試す気などないが、想像以上のスピードでスマートにコーナーを駆け抜けていける。
たとえるなら、後輪操舵を備えてコマのようにグイグイ曲がっていくルノーのFFホットハッチ「メガーヌR.S.」が、「まず快感! そして速い」だとすれば、ゴルフGTIのシュアーな旋回感覚は、「まず速い! それが快感」といったところだろうか。
飽きることなくチャキチャキ走りを楽しめる
結論を言おう。現行型ゴルフGTIはいわば、「老舗の蕎麦屋のカツ丼」のような存在だ。昔、年間100食のペースでカツ丼を食べ歩いていた(そしてブクブク太った)ことのある自分が言うから間違いない。
カツ単体のボリューム感やサクサク感なら大抵、トンカツ屋に軍配が上がるだろう。しかし、カツと玉ねぎを卵でとじて白飯にかける、「カツ丼」という一個の料理としては別の話で、時として蕎麦屋のメニューについでのように載っているカツ丼が、トータルバランスで上回ることがある。なぜかといえば、きちんとした蕎麦屋が長年にわたり洗練させてきた「だしの効いたつゆ」が、カツ丼の各具材を統合して高次元に引き上げるからだ。
その「だしつゆ」がゴルフGTIでいえばVWの名人芸のようなシャシーチューニングだとすれば、トンカツはエンジンに相当する。いい蕎麦屋のカツ丼は、店によっては肉厚1cm未満だったりするが、その方が衣や卵や出汁とのバランスが絶妙だったりする。
ゴルフGTIの245psはじつは十分以上にパワフルなのだが、スペックの絶対値や刺激の強さでは今どき上をいくライバルも多いし、どれを選ぶのも人それぞれの好みだ。それでも、成熟きわまったゴルフGTIは、ぜひ一度は味わってみる価値があるはず。それは、フォルクスワーゲンという大衆車の老舗がずっと育んできた、FFホットハッチという名の「ごちそう」なのだから。
* * *
なおVWゴルフ2024年1月24日にドイツ本国でフェイスリフトを受け、いわば「ゴルフ8.5」に。あわせてゴルフGTIの次期型も発表されたが、スタイルやインフォテインメントの強化のほかはエンジンパワーが少し増強される程度で、従来の美点は変わらない模様だ。
本稿執筆時点でVWジャパンのゴルフGTIウェブサイトには「※現行モデルはご好評により完売しました。新型モデルの情報をお待ちください」と記されている。はたして2024年度中に日本導入されるかどうか、期待して待ちたい。
試乗車の諸元
■VOLKSWAGEN GOLF GTI
フォルクスワーゲン ゴルフGTI
・車両価格(消費税込):525万円(※現行モデルは完売)
・全長:4295mm
・全幅:1790mm
・全高:1465mm
・ホイールベース:2620mm
・車両重量:1430kg
・エンジン形式:直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボ(4バルブ)
・排気量:1984cc
・エンジン配置:フロント
・駆動方式:フロント駆動
・変速機:7速DSG
・最高出力:245ps/5000-6500rpm
・最大トルク:370Nm/1600-4300rpm
・公称燃費(WLTC):12.8km/L
・ラゲッジ容量:380L
・燃料タンク容量:51L
・サスペンション:(前)ストラット式、(後)4リンク式
・ブレーキ:(前&後)ベンチレーテッドディスク
・タイヤ:(前&後)225/40R18(※試乗車はDCCパッケージ装着で235/35R19)
■「AMWリレーインプレ」記事一覧はこちら