フェラーリ初の市販ハードコアモデル、360チャレンジ・ストラダーレ
量産モデルのパフォーマンスを向上させるとともに、スパルタンな内外装で軽量化を図った「ハードコア」モデルが、スーパーカーの世界でも常套となって久しく、初期のハードコア・スーパーカーは、すでにクラシックカー市場でも重要なコレクターズアイテムとなっているのは、ご存知のとおりです。2024年5月10日~11日に、地中海に面した見本市会場「グリマルディ・フォーラム」を舞台として開催されたRMサザビーズ「MONACO」オークションでは、これまでAMWでもしばしば取り上げてきたフェラーリ市販ハードコアモデルの元祖「360チャレンジ・ストラダーレ」が出品。今回は、その最新オークション結果についてお伝えします。
近現代の量産フェラーリの中でも、もっとも爽快なモデルのひとつ?
往年のル・マン優勝車「250 LM」にインスパイアされたともいわれる官能的なスタイリングとともに、1999年に発表されたフェラーリ「360モデナ」。「F355」の後継機として開発されたこのモデルは、ファンの期待を裏切らないものだった。
まったく新しいアルミニウム製モノコックは40%のねじり剛性アップに成功。355時代よりも明らかに大柄になったものの、重量はほとんど変わらなかった。そして、それは明らかに速くなっていた。
吸気系の改良により、3586ccの40バルブV型8気筒エンジンは400psに到達。低回転域でのトルクをアップさせるとともに、市販フェラーリ初の「フライ・バイ・ワイヤ」式セットアップによりスロットルレスポンスも速められた。
6速マニュアルまたはF1スタイルのパドルシフトを備え、洗練されたエアロダイナミクスと軽量アルミ合金製サスペンションを採用した。電子制御ダンパーはより速く作動し、ブレーキ、タイヤ、18インチホイールもくまなく改良が施された。
2000年には、「360チャレンジ」がラインアップに加わる。ワンメイクレース選手権に向けて開発されたこのモデルは、同じ400psのV型8気筒エンジンを搭載しながら軽量化を実現し、サーキット用にチューニングされたシャープなシャシーを誇った。
その後、FIAのホモロゲーションを受けた「360 GT」が登場し、2003年には究極のロードゴーイングバージョンである「チャレンジ・ストラダーレ」が登場することになる。
上記2モデルの「コンペティツィオーネ」から派生したストラダーレは、標準の360よりも110kg軽量化されるかたわら、出力は425psに向上。迅速な変速のために再プログラムされたパドルシフト、そしてF1由来のローンチコントロールを備えていた。
また、より硬いチタンスプリングで、全高は標準型の360モデナよりも15mm低められたうえに、カーボンセラミックブレーキ、締め上げられたダンパー、フロントとリアのタイヤサイズも見直され、軽量化された専用ホイールが組み合わされた。
くわえて、エアロダイナミクスもパフォーマンスの名のもとに微調整。「ピスタ・ディ・フィオラーノ」の周回タイムは通常の360よりも5秒以上速く、さらにはハイパーカー「エンツォ」よりも1.6秒速いと主張するこのモデルは、近現代フェラーリの中でももっとも爽快な市販ロードカーのひとつと目されているのだ。
360「チャレスト」は高値安定?
このほどRMサザビーズ「MONACO 2024」オークションに出品された360チャレンジ・ストラダーレは、1300台にも満たない生産台数(1288台説が濃厚)のうちの1台で、2004年2月3日にマラネッロ工場からラインオフした個体という記録が残されている。
ボディカラーは、「チャレスト」ではイメージカラーとされていた朱色がかった赤「ロッソ・スクーデリア」ではなく、フェラーリ伝統の「ロッソ・コルサ」。ブレーキキャリパーも共色とされた。またカーボンファイバー製のフレームを持つシート、ブラックのロールケージ、「ネロ(黒)」と「ロッソ(赤)」コンビのインテリアに、赤糸のステッチが施されている。
ドイツのフェラーリ正規代理店「アウトハウス・ゴーム(Autohaus Gohm)」社から、幸運なファーストオーナーのもとに届けられたこの360チャレンジ・ストラダーレは定期的にドライブに駆り出されていたようで、納車から11カ月で1万352kmを走行したという。しかし、コレクターズアイテムとなった近年では使用頻度をより控えめにされていたのか、公式ウェブカタログの作成時点でのマイレージは、RMサザビーズいわく「わずか4万2847km」とのことである
かつてはル・マン24時間レースでフェラーリを走らせたことでも知られる名門ディーラー「シャルル・ポッツィ」から、2022年に現オーナーが手に入れたこの元祖ハードコア系市販フェラーリには、各種取扱説明書や請求書、フェラーリの刻印が入ったサービスブックを収めたレザーウォレットが付属している。
また、4本のカムシャフトの駆動をゴム製ベルトで賄う旧世代のV8エンジンでは、重要なチェックポイントとなるであろうカムベルトは、走行距離4万1537kmの段階で交換作業が行われているという。
このチャレンジ・ストラダーレは、並みいるフェラーリ360ファミリーの中でも格段に魅力的なバリエーションのひとつと目されている。そして「ロッソ・コルサ」外装に「ネロ」内装というフェラーリらしく望ましいカラースキームは、持ち前の魅力をさらに増すともいえよう。
ところで冒頭でも記したとおり、AMWでは次世代のコレクター向けフェラーリとして360チャレンジ・ストラダーレに注目しており、これまでにもいくつかの個体についてオークション結果をフォローしている。
たとえば、同じRMサザビーズ欧州本社が2022年11月に開催した「LONDON」オークションでは、13万ポンド~16万ポンドというエスティメート(推定落札価格)に対して、14万9500ポンド(当時のレートで約2500万円)で落札。比較的安価なハンマープライスに、この時はマーケットがいったん沈静化したとも思われた。
しかし、2024年3月の「MIAMI」オークションでは、30万~40万ドルのエスティメート(推定落札価格)に対して、31万3000ドル(約4750万円)で落札されたことで、360チャレンジ・ストラダーレの評価は再び上昇の兆しを見せたようにも見受けられた。
それらの前例に対して、今回の「MONACO 2024」オークションに出品されたチャレンジ・ストラダーレは、22万ユーロ~25万ユーロのエスティメート(推定落札価格)。実際の競売でも24万1250ユーロ、日本円に換算すると約4100万円という落札価格となったのは、現況におけるこのモデルのマーケット相場が、高値安定のまま落ち着きつつあるということなのかもしれない。