主催者と落札者にとってWin-Winのオークションだった
2024年5月10日、RMサザビーズがモナコで開催したオークションにポルシェ「928 GTS」が出品されました。ポルシェ「928」シリーズは、1977年から1995年までの間に6万1000台以上を販売していますが、そのうちのGTSは約2900台で、全生産台数の5%にも満たない数となります。今回出品されたモデルは、コンディションが良い魅力的な1台でした。
ロングセラーモデルだったポルシェ928
1970年代を迎えたポルシェにとって、最も重要なプロジェクトのひとつといえたのは、それまでの「911」シリーズに代わる新たなフラッグシップ・モデルを生み出すことだった。フロントに新開発のV型8気筒エンジンを搭載し、メルセデス・ベンツやBMW、さらにはフェラーリやアストンマーティンといったブランドまでをライバルと想定したモデルは、1977年に誕生した「928」だった。
リアエンジンの911とはまったく雰囲気の異なるボディデザインは、たしかにプレミアムクーペとしては魅力的なものにほかならなかったが、ポルシェの期待に反して、それは911のカスタマーから高く支持されることはなく、結局は911の存在感がさらに高まる結果を生み出すことになってしまった。928は911の後継車にはなり得なかったのだ。
だが928に採用されたさまざまな新技術には、興味深いものが多くあった。4474ccの排気量を持つV型8気筒エンジンのフロントミッドシップに始まり、それに組み合わされる5速MT、もしくは3速ATをリアに配置するトランスアクスル方式による前後重量配分の最適化。シャシーではコーナリング中の横荷重を利用して、アウト側の後輪を最大2度イン側に向けて操舵する「ヴァイザッハアクスル」やマルチリンク式サスペンションの採用などは、その象徴的な例といえる。
928は、1980年には排気量を4664ccに拡大するなどのチューニングで、最高出力を300ps(ドイツ本国仕様、以下同)にまで高めた「928 S」に進化した。1984年にはさらに排気量を4957ccとするとともに、DOHC 32バルブヘッドを与えた292ps仕様の「928 S2」に、そして1987年になると前後のバンパーやリアスポイラーなどのデザインにも改良の手を施した「928 S4」に進化を遂げる。
ちなみに928 S4の最高出力は320ps。最高速も270km/hに達し、いわゆるアウトバーン・クルーザーとしての性能は超一流のものとなった。そして1990年にはさらに330psを発揮し、275km/hに最高速を高めた「928 GT」が誕生する。
928シリーズのなかでも数が少ないGTS
ここで紹介する「928 GTS」は、このように進化を遂げてきた928シリーズのラストモデル、すなわち最終進化型だ。V型8気筒エンジンの排気量はついに5396ccに至り、最高出力と最高速は340ps、294km/hを達成した。ポルシェは1977年から1995年までに6万1000台以上の928シリーズを生産したが、その中でこのGTSは約2900台。それは全生産台数の5%にも満たない数だ。コンディションの良い928 GTSは簡単には市場には出回らない。なにしろ生産中止からすでに30年近くが経過しているのだから。
今回の出品車は、1992年に新車でイタリアのカスタマーに販売されたのち、2007年にスイスの愛好家に買い取られた記録が残るが、この時点での走行距離はわずかに5万1000km。その後フランスのカスタマーの手にわたり、現在まで5万2640kmを走行したのみの5速MT車だ。
オークションの主催者であるRMサザビーズは、928 GTSに10万~14万ユーロのエスティメート(推定落札価格)を、最低落札価格なしの条件で掲げたが、それもビッター(入札者)の注目を集める理由のひとつになったのだろう。結果的に10万9250ユーロ(邦貨換算約1850万円)での落札となった。出品者にとっても落札者にとっても、まさにWin-Winのオークションだったと報告してもよいだろう。