現オーナーは、アウディの元ワークスレーサー?
退役となったのち、20年以上にわたってアウディ本社の管理下にあったシャシーナンバーLN000049は、2014年4月に元ワークスドライバーであるヒューベルト・ハウプト氏本人が手に入れる。そして、ドイツのヒュッテンハウゼンにある「イムグルント・モータースポーツ(Imgrund Motorsport)」社に委託し、1991年仕様へとフルレストアした。
この段階では、複雑な駆動システムとサスペンションのリビルド、配線や配管の引き直し、4.2Lエンジンへの換装など、さまざまな作業が行われている。この時搭載された4.2Lユニットは、オリジナルの3.5Lよりも最高回転数が低くなるかたわら、とくに低中速のトルクには優れたものとのことである。
1991年仕様の「アウディ・スポーツ」のカラーリバリーで精巧に仕上げられたシャシーナンバーLN000049は、オリジナルのレースエンジン、スペアタイヤ2セット、ワイヤーハーネスとブレーキシステム一式、現役時代のデータがダウンロードされた当時物のノートパソコンなど、豊富なスペアパッケージも添付されている。
この時代のアウディが、V8クワトロを擁してドイツDTM選手権に参戦したこと自体は、記憶している人も多いかもしれない。しかし、その活動期間はあまりにも短かったこと、あるいは事実上のワークス参戦のみでマシンの絶対数も少なかったことから、当時のエントリー車両が現代のクラシックカー市場に姿を見せる機会は、限りなく少ないのが実情である。
そんな状況のもと、レストアを終えて以来ごくわずかしか使用されていないこのマシンは、すでにFIAの「ヒストリカル・テクニカルパスポート」を取得しており、アウディV8が対象となる数多くのヒストリックツーリングカー・レースや、ヤングタイマー・ツーリングカーレースに参加するには、この上なく魅力的で競争力のある1台である、というPRフレーズとともに、RMサザビーズ欧州本社は75万ユーロ~100万ユーロという、自信たっぷりのエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが、実際の競売では思いのほかビッド(入札)が伸びなかったようで、現在では65万ユーロ、日本円に換算すると約1億1000万円までプライスを下げて、継続販売となっているようだ。