緻密で上質、英国製大排気量ツーリングカーの魅力を凝縮した乗り味
ここまで、静的な部分では「小ぶりなベントレー」くらいの印象しかないかもしれないが、ブリストルの本分が目を覚ますのは、エンジンに火が入ってからである。
チョークレバーを引き、スロットルを軽く踏んで3基のダウンドラフトキャブレターにガソリンが行った頃合いを見計らって、イグニッションキーの右にある小さなスイッチを押すと、やや長めのクランキングののちストレート6気筒エンジンが「ヴォンッ」と始動する。
しばらく暖気ののち、油圧が安定したのを確認。適度な節度感が心地よいシフトレバーを1速に押し込んでスタートすると、総アルミボディのおかげか、大柄な割には1410kg(国内車検証のデータ)という軽めの車体はスッと動き出す。
まずはゆっくりと住宅街を抜け、大通りに出たところでスピードアップ……、と思っていた。ところが、オーバーヒートを避ける(取材日はけっこうな暑さの好天だった)ために2000~2500rpmあたりで早めのシフトアップを心がけつつ走っていると、どうも交通の流れから置いていかれてしまいがちになる。
ここで思い出したのは、名機ブリストル6気筒ユニットが5000rpm以上でも常用域とする、当時としては高回転指向のエンジンだったこと。それは、405までの2L版だけでなく、もともと406用で「ACエース・ブリストル」などにも搭載された2.2L版でも本質的には変わらないようだ。
そこで、遠慮をかなぐり捨てて3500~4000rpmあたりまで引っ張ってみると、「ヴォーーーンッ」という極上の直6サウンドを響かせ、あっという間にスピードを上げてゆく。しかも、スロットルレスポンスはピュアスポーツ用のエンジンにも匹敵するレベルのもので、名機の名機たる所以のようなものを実感させられるのだ。
またハンドリングも、基本設計が1950年代中盤まで遡ること、あるいは全長4.9mを超える図体をほとんど意識させない軽快なもの。これは、ブリストルの第1作にあたる「400」から継承された、この時代ではまだ少数派だったラック&ピニオン式のステアリングギヤボックスを採用したことが、大きな要因となっているかに思われる。くわえて、前述のディスクブレーキのおかげで、まるで10年は新しい世代のクルマであるかのような制動力も見せてくれる。
つまりは、すべてが緻密で上質。ベントレー「コンチネンタル」に代表される、この時代の英国製大排気量ツーリングカーのよさをギュッと凝縮したようなスポーツサルーンなのだ。
重厚なスタイリングや、英国車らしい豪華さを増した装備から、ブリストル406は開祖「400」から「403」に至る先鋭的なスポーツサルーンから、正真正銘の高級車へと昇華したともいわれる。それにもかかわらず、依然として「ファン・トゥ・ドライブ」であり得ていたことは、当時の識者からも大いに称賛されたとのことである。
これまでこの個体には何度も乗ってきたが、いつもは近所の移動だけだったのに対して、今回は初めてちょっと本気で走らせてみると、当時のコニサー(通人)たちの眼が正しかったと実感させられた。
そして、ブリストルというクルマの魅力は触れて、乗ってみないと、なかなか分かって貰いづらい……、という認識を新たにしたのである。
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