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あなたの知らない英国車「ブリストル406」とは? BMW製6気筒と兄弟といわれる直6エンジンで気持ちよく走るコツをお教えします【旧車ソムリエ】

1957年から1961年までの間に174台が生産されたブリストル406

1961年式 ブリストル406

「クラシックカーって実際に運転してみると、どうなの……?」という疑問にお答えするべくスタートした、クラシック/ヤングタイマーのクルマを対象とするテストドライブ企画「旧車ソムリエ」。今回は、日本にはわずか2台しか生息が確認されていない、英国の希少なミドル級高級ツーリングカーの「ブリストル406」を俎上にのせ、そのモデル概要とドライブインプレッションをお届けします。

わが国では未知の存在、ブリストルとは?

「ブリストル406」というクルマの解説に入る前に、まずはイギリス以外ではほとんど見ることのない、ブリストルというメーカーについても軽くご説明させていただきたい。

第二次世界大戦が終結した1945年。それまで航空機メーカーとして「ブレニム」や「ボーファイター」など数々の名機を輩出してきた「ブリストル・エアプレーン・カンパニー」の社主、ジョージ・スタンレー・ホワイト卿は、戦後の航空機生産縮小で余剰となってしまった優秀なスタッフたちに職務を用意するために、高級乗用車の生産に乗り出すことを決意。その本拠でもあるブリストル市近郊の田舎町フィルトンに、新たに「ブリストル・カーズ」社として分社を果たした。

創成期のブリストル各モデルは、航空機基準で生み出された高度に緻密なつくりに、英国製高級車の伝統を体現したインテリアを両立するなど独特の魅力を湛える反面、土着性がきわめて高く、イギリスおよびコモンウェルス以外の国では車名さえあまり知られていないのが実情。それでも「コニサー(通人)」のためだけにクルマを創るという稀有な姿勢から、自動車メーカーとしては休眠状態にある現在でもなお、クラシックカーの世界では独自のポジションを築いている。

いっぽう今回の主役である「406」は、スイスのコーチビルダー「カロッセリー・ボイトラー(Carrosserie Beutler)」が製作した試作車の状態で、1957年にパリおよびロンドンのモーターショウにてお披露目されたモデル。1950年代の「404」および「405」以来となるジェット吸入口のようなノーズに、ボイトラー試作車から発展した、より重厚なプロポーションを組み合わせた2ドアサルーンである。

メカニズムの面において、従来のブリストル各モデルに対する最も重要な変更点は、直列6気筒OHVエンジンのボアを66mmから69 mmに拡大したこと。ストロークは100 mmで維持され、排気量は1991ccから2216 ccへと拡大された。ただし、スペック上の出力は「405」用「100B」スペックから変わらない105psにとどまったものの、低・中速域でのトルクは2L時代よりも高められ、ドライバビリティは格段に向上したと言われている。

また406ではリアサスペンションも、従来すべてのブリストル車に採用されていた旧式なAブラケットを廃止して、より現代的なワッツリンクに変更。ワッツリンクを採用した世界初の量産サルーンのひとつとなったといわれている。

加えて、406では前/後輪ともにダンロップ製のディスクブレーキを備え、かの名作「ジャガーMk2」と並んで、世界で最も早い時期に4輪ディスクブレーキを備えた乗用サルーンのひとつとも称されている。

1961年をもって、174台を生産した段階で406はフェードアウト。それは同時に、旧き佳きブリストル自社製の直6ユニットの終焉も意味していた。つまり406は、自動車史に残る名機、ブリストル6気筒を搭載した最後のモデルだったのだ。

1950年代における、世界最良のミドル級乗用車用エンジン

今回の取材にご協力いただいたのは、日本で唯一、ブリストル製クラシックカーの専門ディーラーとして活動する「ブリストル研究所」。ロールス・ロイス/ベントレーの世界的コレクターとして、かつて埼玉県加須市に「ワクイミュージアム」を開設した涌井清春氏が新たなチャレンジとして開設した、ちょっと変わったスペシャルショップである。

そして今回の主役であるブリストル406は、イギリスでも唯一のブリストル専門店であり、ブリストル研究所にとってはビジネスパートナーでもある「SLJ Hackett」社から、2022年に輸入した個体。濃いメタリック・グリーンのボディに、クリームのレザーインテリアを組み合わせ、内外装ともきわめて美しいコンディションにある。

また機関系については、もともと良い状態で日本へとやってきたうえに、さらに国内で再調整を重ねた結果、現在ではブリストル自社製6気筒エンジンの素晴らしさを存分に味わえるメカニカルコンディションを誇っている。

じつをいえば、20年以上にわたって涌井氏とともに歩んできた筆者は、ブリストル研究所においても「主任研究員」なる肩書きとともに密接に関与しており、今回の取材車両にも頻繁に乗っているのだが、乗るたびに新鮮な感動を与えてくれるのがブリストルというクルマである。なかでも、このクルマの魅力を決定づけている要素として、直列6気筒OHVエンジンの存在を挙げないわけにはゆくまい。

第二次世界大戦前の独BMWにて、「328」に代表される一連の名作を設計したフリッツ・フィードラー技師が、戦後一時的にブリストルに招聘されて開発した直6エンジンは、BMW製6気筒の兄弟ともいえる。

ともに凝った設計のプッシュロッド+ロッカーアームでDOHCにも匹敵する燃焼効率を獲得。その高性能とスムーズさから、当時の自動車メディアは「1950~60年代における世界最良のミドル級乗用車エンジン」と絶賛したという。しかもこのエンジンはチューニングを施すことで、ル・マン24時間レースで2年連続クラス1-2-3フィニッシュ(1954~55年)を達成するなど、レーシングユニットとしても素晴らしい実績を残しているのだ。

間近に見る406のスタイリングは、航空機的な流線型を強調した「401」~「405」までの先達たちに比べると、かなり重厚な3ボックス型。またインテリアのフィニッシュは同時代のベントレーと比べても、間違いなく同レベルにある。さらに、ウッドパネルの玉杢(たまもく)の細やかさなどをまじまじと見ると、もしかしたらベントレーの量産モデルよりも上では……? とさえ思わせる、豪奢な雰囲気を漂わせていることがわかってくる。

緻密で上質、英国製大排気量ツーリングカーの魅力を凝縮した乗り味

ここまで、静的な部分では「小ぶりなベントレー」くらいの印象しかないかもしれないが、ブリストルの本分が目を覚ますのは、エンジンに火が入ってからである。

チョークレバーを引き、スロットルを軽く踏んで3基のダウンドラフトキャブレターにガソリンが行った頃合いを見計らって、イグニッションキーの右にある小さなスイッチを押すと、やや長めのクランキングののちストレート6気筒エンジンが「ヴォンッ」と始動する。

しばらく暖気ののち、油圧が安定したのを確認。適度な節度感が心地よいシフトレバーを1速に押し込んでスタートすると、総アルミボディのおかげか、大柄な割には1410kg(国内車検証のデータ)という軽めの車体はスッと動き出す。

まずはゆっくりと住宅街を抜け、大通りに出たところでスピードアップ……、と思っていた。ところが、オーバーヒートを避ける(取材日はけっこうな暑さの好天だった)ために2000~2500rpmあたりで早めのシフトアップを心がけつつ走っていると、どうも交通の流れから置いていかれてしまいがちになる。

ここで思い出したのは、名機ブリストル6気筒ユニットが5000rpm以上でも常用域とする、当時としては高回転指向のエンジンだったこと。それは、405までの2L版だけでなく、もともと406用で「ACエース・ブリストル」などにも搭載された2.2L版でも本質的には変わらないようだ。

そこで、遠慮をかなぐり捨てて3500~4000rpmあたりまで引っ張ってみると、「ヴォーーーンッ」という極上の直6サウンドを響かせ、あっという間にスピードを上げてゆく。しかも、スロットルレスポンスはピュアスポーツ用のエンジンにも匹敵するレベルのもので、名機の名機たる所以のようなものを実感させられるのだ。

またハンドリングも、基本設計が1950年代中盤まで遡ること、あるいは全長4.9mを超える図体をほとんど意識させない軽快なもの。これは、ブリストルの第1作にあたる「400」から継承された、この時代ではまだ少数派だったラック&ピニオン式のステアリングギヤボックスを採用したことが、大きな要因となっているかに思われる。くわえて、前述のディスクブレーキのおかげで、まるで10年は新しい世代のクルマであるかのような制動力も見せてくれる。

つまりは、すべてが緻密で上質。ベントレー「コンチネンタル」に代表される、この時代の英国製大排気量ツーリングカーのよさをギュッと凝縮したようなスポーツサルーンなのだ。

重厚なスタイリングや、英国車らしい豪華さを増した装備から、ブリストル406は開祖「400」から「403」に至る先鋭的なスポーツサルーンから、正真正銘の高級車へと昇華したともいわれる。それにもかかわらず、依然として「ファン・トゥ・ドライブ」であり得ていたことは、当時の識者からも大いに称賛されたとのことである。

これまでこの個体には何度も乗ってきたが、いつもは近所の移動だけだったのに対して、今回は初めてちょっと本気で走らせてみると、当時のコニサー(通人)たちの眼が正しかったと実感させられた。

そして、ブリストルというクルマの魅力は触れて、乗ってみないと、なかなか分かって貰いづらい……、という認識を新たにしたのである。

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