来歴がほぼ完璧に残されていることは、マーケット価格にも反映する?
このクルマに付属するフェラーリ・クラシケ「レッドブック」によると、このほどRMサザビーズ「MONACO 2024」オークションに出品されたフェラーリ365GTS/4デイトナ スパイダーは、「15383」のシャシーナンバーを与えられてラインオフ。
1972年3月に、当時のミラノ地区フェラーリ正規ディーラーの「M.G.クレパルディ・アウトモービリ」社に引き渡されたのち、4カ月後の7月4日、ミラノの「モトールグイ有限会社」がイタリア在住のファーストオーナーに納車した。また、その前月にミラノナンバー「MI P 83722」で初登録されていた。
スカリエッティ製のボディは「グリジオ・アルジェント(シルバーグレー)」で塗装され、キャビンには「ネロ(黒)」のコノリー社製レザーハイドが張られていた。
フェラーリの大家として知られる自動車史家、マルセル・マッシーニ氏によると、シャシーナンバー15383は、121台中48台目に製造されたデイトナ スパイダーであり、グリジオ・アルジェント仕上げで工場を出荷された14台のうちの1台であったとされる。
1974年6月12日には、シャシーナンバー15383は再びモトールグイ社を介して、2代目オーナーとなるミラノの油圧機械製造会社「CEI S.r.l.」に譲渡される。
1979年9月には、ミラノ在住のエミリオ・ジュッサーニがこのデイトナ スパイダーの3代目オーナーとなり、1980年4月、美容・化粧品会社「ロレアル」の会長として当時パリに駐在していたリンゼイ・オーウェン・ジョーンズ卿に売却した。翌月、この個体はイタリア・トリノで「TO U 90877」としてナンバー登録された。
そののち1981年までに、シャシーナンバー15383はブラックに再塗装され、リビルトエンジンを搭載して走行していたと報告されており、当時イタリアのアレッサンドリアで開催されたフェラーリのクラブイベントでも目撃されていたようだ。
1983年3月には大西洋を渡り、北米コネチカット州ダンベリーの正規ディーラー「ボブ・シャープ・フェラーリ」で販売され、のちにニューヨークのマイケル・ワインストックに売却。しばらくは表舞台から姿を消す。
しかし1993年になると再び姿を現し、今度は新車時代のグリジオ・アルジェントに戻され、1994年10月にフロリダ州在住のジョン・ウィンターに売却。彼は、サンディエゴ「シンボリック・レストレーション」社のボブ・シャナハンに、このデイトナ スパイダーをフルレストアするとともに、イエローに再塗装するよう依頼する。
そして1990年代後半に売りに出されたシャシーナンバー15383は、1998年のオークションで買い手不明のまま落札。再び表舞台から姿を消すことになる。
それから12年の時を経た2010年、カリフォルニア州バーバンクの著名なコレクションの一部として登場したシャシーナンバー15383は、フェラーリ・クラシケによって公認され、同年4月21日に「レッドブック」が発行された。
2011年1月、オークションでロンドン在住のオーナーに売却され、その後イタリアで開催されたフェラーリのドライビング・イベントにて、イエローにペイントされた同車が走行する姿が目撃されたとのことである。
そして6年後、今回のオークション出品者である現オーナーが入手したこのクルマは、フェラーリについては世界的名匠として知られる「カロッツェリア・ザナージ」とジョー・マカーリが、2年がかりでペイント総剥離のフルレストアを施す。エンジンとギアボックスはリビルトされ、サスペンションを含むそのほかの機械部品も一新された。
豪華なレッドのレザーインテリアが施され、エクステリアは魅力的なガンメタル・グレーに仕上げられた。このレストアは、2019年にローマで開催されたクラシック・フェラーリのイベント「カヴァルケード・クラシケ」までに間に合わされたという。
フェラーリ・クラシケの「レッドブック」のほか、フェラーリ社発行の原産地証明書コピー、ACIのドキュメント、そしてマルセル・マッシーニ氏によるレポートが添付された、この魅力的なデイトナ スパイダーについて、RMサザビーズ欧州本社は280万ユーロ~320万ユーロのエスティメート(推定落札価格)を設定した。
これは、同じRMサザビーズ欧州本社が2023年11月に開催した「MUNICH 2023」オークションにおいて、235万ユーロ~265万ユーロというエスティメートに対して、309万8750 ユーロで落札された実績からみても、極めて妥当な価格づけと思われる。
そして、実際の競売でも、エスティメートの上限を上回る343万6350ユーロ、日本円に換算すると約5億8200万円という目覚ましい落札価格となったのは、スカリエッティで正規に架装された本物の365GTS/4デイトナ スパイダーには、しかるべきプライスが認定されること。そして来歴も事細かに残されていることが、市場価値に反映するからにほかなるまい。