アメリカンマッスルカーの本質は、マニュアルにあり
鮮やかなブルーのカラーで艶やかなボディのフォード「マスタング マッハ1」。思わず見惚れてしまう美しい外観とともに、日本国内では割と珍しいマニュアル車であることに注目しました。なぜアメ車が好きになり、どのようにこの個体を入手したのか? その詳細をオーナーの納さんに教えてもらいました。
カーアクション映画で知る各国のスポーツカーの魅力
「第8回オールドカーフェスティバルinみすみ2023」でお会いした納 優友さんは、1972年式のフォード「マスタング マッハ1」で参加。車両のコンディションや内容と、まだ若く見える納さんのギャップに興味を持ったことが、今回の取材の発端だった。美しく磨きあげたアメ車乗りはたくさんいるが、その状態でスティックカー(アメリカではマニュアルの事をスティックと呼ぶ)に乗る納さん。そもそもこのような車両に興味を持ったきっかけは、アメリカ映画の影響だったそうだ。
「20代前半で観た『ワイルド・スピード』シリーズでアメリカンマッスルカーに興味を持ち、その後に観た『バニシング in 60』で、このフォード マスタング マッハ1が好きになったのです。最初は、三菱GTOに乗っていたのですが、その後に1997年式のフォード マスタングへ。そして、この今の愛車へと辿りつきました」
彼が徹底しているのは、三菱GTOから始まる車歴が全てアメリカと接点があり、さらに速さを象徴する車両選びをしていることだろう。GTOはアメリカでは「3000GT」の名前で販売。しかも、三菱とクライスラーが当時提携していたこともあり、ダッジブランドにて外装デザインを変更し、「ステルス」という兄弟車も存在する。
その次に手に入れた1997年式マスタングのグレードは、SVTコブラ。フォード社内の「Special Vehicle Team」が携わった車両で、この年式はすでにOHVではなく排気量4600ccのV型8気筒DOHCエンジンを搭載し、309psを発生。そしてもちろん5速マニュアルだった。
日本国内でのアメリカ車のイメージは、OHV型式で大排気量エンジンをオートマチックミッションで、低速でドロドロと排気音を轟かせながら乗る。そんな印象が強いかもしれないが、実際はさまざまな車種に究極の速さを追求したグレードやモータースポーツベース車が存在し、必然的にマニュアルミッションも搭載されているものなのだ。納さんは、このアメリカ車の本質を理解し、その領域に踏み入れた若手オーナーということになる。
スティックを求めて、輸入代行業者を使って個人輸入に挑戦
納さんの絶対条件は、スティックカー=マニュアル車であること。つまり、日本国内に流通している車両では見つかりにくい可能性が高かったため、自ら直接アメリカの中古車サイトやeBayで車両を探し出し、代行業者を使って日本へと送ってもらい、愛車として入手したという並々ならぬ努力と苦労を経験している。
「マニュアルであることは外せませんでした。時間をかけて探した結果、外装レストア済み、純正4速マニュアルのこの個体を、ミシガン州で発見したのです。そして、アメリカ国内での輸送から日本への発送と時間をかけて、5年ほど前に愛車となりました」
念願のマスタング マッハ1を手に入れた納さんだが、車両の楽しみ方にも自分流がある。基本は、純正状態を継続することよりも、この日本国内で自分がどれだけこの車両を楽しめるかに集約。そのため、シートはスパルコ、ハンドルはOMPへと変更し、理想のドライビングポジションを獲得。さらに社外品のパワーステアリングも装着している。また、車内の快適性向上のために、シート下の内装を外して吸音と消音材を敷き詰め、新たにカーペットを装備。
他には、デフとトランスミッションはオーバーホールして、トランスミッションのギア比を3.5から3.25へと変更。4速しかないので高速で回転数が上がりすぎるため、ギア比を下げて低回転で巡行できるようにした。そして、車内にはバックカメラや右側前方視界用のカメラを増設。車両のデザインや左ハンドルという特性上、死界が増えるポイントをカメラで補足しているのだ。
「オリジナル度にこだわり過ぎず、現代の技術を使って、日本で乗りやすくすることを意識しています」
そう語ってくれた納さん。ヘリコプター整備士という本業で得た経験値を駆使して、上記のモディファイやオーバーホールは基本的に自ら手がけるという。DIY派として、マスタング生活を楽しんでいるのだ。