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超ワイルドに変貌したトヨタ「クラウン クロスオーバー」は高級車なのか?「RS“ランドスケープ”」に輸入車ライターが乗ってみたら…

2024年4月4日にトヨタが発表した特別仕様、クラウン クロスオーバー RS“ランドスケープ”

爽快感にあふれるクラウンなんて、想像もしていなかったのに……

2024年4月にトヨタが「クラウン クロスオーバー」の一部改良と同時に発表したオフロード風味の特別仕様車、「RS“ランドスケープ”」。元インポーターの社員で、ライターとしてもこれまでずっと輸入車畑で国産車にはあまり縁のなかった武田公実氏は、じつは新型クラウンに乗ることさえも初めてだったそうですが、そのできばえと実力には驚きを禁じ得なかったそうです。海外ラグジュアリーカーのスペシャリストの視点からレポートします。

洗練を重ねたハイブリッドは、走りの面でも魅力的

2022年のデビューから2年近くの時を経て、今や街中でもすっかり馴染んだ感のあるトヨタ「クラウン クロスオーバー」ながら、初めて「RS“ランドスケープ”」と対面した時には、いささか気おされてしまった。

「RAV4」などと同じ、「ブラック×アーバンカーキ」の専用ボディカラーや「GORI GORI BLACK」塗装が施されたオーバーフェンダー。さらには鮮やかな赤のマッドガードなどでカスタマイズされたことで、もとよりSUV的な雰囲気を醸し出していたクラウン クロスオーバーに、さらなるアウトドアテイストが与えられているのだが、根っからのインドア派である筆者には、かなりの強敵と映ってしまったのだ。

それでも気を取り直してキャビンに乗り込み、まずは住宅街の狭い道をゆっくりと走らせてみると、このアグレッシブな見た目からは想像もできなかったほどに見切りが良く、全長4930mm×全幅1880mm×全高1565mmという大柄な車体のわりには、とても走らせやすいことに気がつく。

そのうえ、発進時から電動モーターのトルクデマンドがとてもナチュラルで、しかも穏やかなのに力強く「スーッ……」と動き出す。走り出したのちも、電動走行領域とエンジン始動の切り替えは驚くほどにスムーズで、さすが初代「プリウス」以来、30年近くにもわたってストロングハイブリッドに取り組んできたトヨタと感心させられてしまう。

そして高速道路に進入し、ゲートを抜けてアクセルペダルを踏み込むと、「あれ……?」とつぶやきたくなるほどに爽快な加速感を披露する。

RS“ランドスケープ”を含む、新型クラウンの各高性能モデルに搭載される「デュアルブーストハイブリッドシステム」は、最高出力272ps/最大トルク460Nmを発生する直列4気筒2.4Lターボエンジンに、フロントに82.9ps/292Nm、リアに80.2ps/169Nmのパワーとトルクを発生する電動モーターを組み合わせる。これらを合算したシステム最高出力は349psもあるのだから、たとえ車両重量が1910kgというかなりの重量級であっても、速いのは当然だろう。

また、一般道でのスムーズかつナチュラルなトルク感はスピードが上がっても変わることなく、スロットル操作に応じて車体全身で気持ちよくレスポンスしてくれる。

唯一、個人的に残念と思われたのは、直列4気筒エンジンのサウンドに色気のたぐいをあまり感じられないことだが、これは4気筒のガソリンエンジンを基幹とするパワートレインを持つクルマであれば、メルセデス・ベンツでもBMWでも大差のないこと。

ICEの発するサウンドを「騒音」として制限しようとする現代においては、一定のところで線引きせざるを得ないのだろう。

クラウンの価値観が大きく変容したことを物語るモデル……?

クラウン クロスオーバーの特別仕様車RS“ランドスケープ”は、最低地上高および全高を25mmリフトアップ。タイヤは専用開発のオールテレインタイプで、それをカバーするボルト止め(風)のオーバーフェンダーにマッドガードも装備。さらにリアバンパー下には、けん引荷重を750kgまで許容するトーイングヒッチまで装備されるという。

でも、ランドスケープというアウトドア志向のネーミングやワイルドな見た目とは裏腹に、その乗り心地はなかなか快適なものであった。

通常のクラウン クロスオーバーが標準指定する225/45R21に対し、225/60R18という、今どきのこのクラスでは分厚いタイヤを履いている。この専用タイヤは、トレッド側だけでなくサイドウォール側まで深いパターンが刻まれた、かなりゴツい形状ながら、舗装路でのロードノイズは上手く遮断されているほか、路面の継ぎ目で不快な突き上げが発生することなどもなく、とても洗練されたドライブフィールが満喫できる。

そのかたわら25mmもリフトアップされた足まわりは、舗装路でのハンドリングには影響を及ぼすかと思いきや、少なくとも首都高のカーブを常識の範囲内のスピードで走らせている限りは破綻の気配すら感じさせず、むしろ楽しいと思えるようなコーナーワークを披露してくれる。

実際のシャシー剛性は相当なレベルであるのは間違いないながらも、ドイツ車のようにことさら剛性感を強調するのではなく、芯は硬くてもしなやか。トヨタが描いた新世代のクラウン像が、快適さもアジリティもともに軽視しないサスペンションチューンからも感じられる。

RS“ランドスケープ”では、日本国内向けクラウン クロスオーバーとしては初めて60:40のトランクスルー機能を与えられたものの、標準版と同じくリアウインドウとトランクリッドを一体化したハッチゲートを放棄しているのは、後席の住人の快適性を最重視したからにほかなるまい。

ワイルドな外観でもその本質は4ドアサルーン

今回のテストドライブで見えてきたのは、たとえ野性的な設えのランドスケープ仕様であったとしても、やはりクラウン クロスオーバーの本質は「4ドアサルーン」であること。ハッチバックとしての実用性を求めるのなら「クラウン スポーツ」も選択肢に置くいっぽう、セダンはFR基調で保守本流を貫こうとする「クラウン セダン」と、SUV的要素を内包する新時代のサルーンとした「クラウン クロスオーバー」を入念に作り分ける。

この割り切りの見極めは、「クラウン エステート」を含む4つのモデルで展開する新型クラウンならではの贅沢な選択とも感じられるのだ。

例えば、ちょっとプラスティッキーなインテリアなどには、筆者のような世代が知る「高級車」の常識、あるいは、多額のコストを投入して「演歌調」と呼ばれた往年のクラウンを愛した世代からすれば、一抹の寂しさを感じないわけでもないだろう。でも、少なくとも乗り味の高級感については、なかなかのレベルにあると断じてしまいたい。

だから、筆者のごとき「ガイシャかぶれ」とまではいわずとも、たとえばドイツのプレミアム御三家などを愛用してきた欧州車ファンが乗り換えることになったとしても、まったくもって不思議ではないだろう。

伝統的な「クラウン」のあり方からは一線を画し、現在と未来を見据えたクラウン クロスオーバー。とくにその世界観をいっそうエクストリームなものとして表現したRS“ランドスケープ”は、長年培ってきたクラウンのブランド価値を次世代にも廃れないよう試みた、ひとつの試金石であるかに思われたのである。

試乗車の諸元

■TOYOTA Crown Crossover RS “Landscape”
トヨタ クラウン クロスオーバー RS“ランドスケープ”

・車両価格(消費税込):685万円
・全長:4930mm
・全幅:1880mm
・全高:1565mm
・ホイールベース:2850mm
・車両重量:1910kg
・エンジン形式:直列4気筒ターボ
・排気量:2393cc
・エンジン配置:フロント
・駆動方式:フルタイム4WD
・変速機:6速AT
・エンジン最高出力:272ps/6000rpm
・最大トルク:460Nm/2000-3000rpm
・フロントモーター最高出力:82.9ps
・フロントモーター最大トルク:292Nm
・リアモーター最高出力:80.2ps
・リアモーター最大トルク:169Nm
・システム最高出力:349ps
・公称燃費(WLTC):15.7km/L
・ラゲッジ容量:450L
・燃料タンク容量:55L
・サスペンション:(前)マクファーソンストラット、(後)マルチリンク
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ベンチレーテッドディスク
・タイヤ:(前)245/60R18、(後)245/40R18

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