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フェラーリの本物の試作車が680万円! ニキ・ラウダもテストドライブした「400i プロトティーポ」を受け継ぐ使命とは

フェラーリの本物の試作車が680万円! ニキ・ラウダもテストドライブした「400i プロトティーポ」を受け継ぐ使命とは

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: 2024 Courtesy of RM Sotheby's

フェラーリの文化遺産を手にするには、確たる信念と覚悟が必要

前述のとおり、フェラーリ400iが1979年のデビューであることは歴史的事実として周知されているが、RMサザビーズ「MONACO 2024」オークションに出品された個体は、同社のオークション公式ウェブカタログに「1975年式」と記されていた。

じつはこのシャシーナンバー「18415」は、1975年にまずは「365GT4 2+2」として、「アルジェント・メタリツァート(シルバーメタリック)」のボディカラーに「ベイジェ(ベージュ)」の本革インテリアで仕上げられた。

しかし、一般のカスタマーに引き渡されることなく、その後の発展型の開発およびテスト走行のため、マラネッロのファクトリーに保管されていたことが判明しているのだ。

かつてフェラーリの英国代理店だった「マラネッロ・コンセッショネアーズ」が運営している「マラネッロ・コンセッショネアーズ・アーカイブ」のオーソリティ、トニー・ウィリスが記した手紙によると、この個体には中途から3速ATと400用4.8Lエンジンが搭載され、当初はキャブレター、最終的に「エスペリアンツァ(Esperianza:実験)」車両として使用されていた時期にはフューエルインジェクションが組み合わされていたとのことである。

また、この時期には「スクーデリア・フェラーリ」のエースパイロットだった、故ニキ・ラウダがドライブしていたという記録も残されているようだ。

フェラーリの世界的権威であるマルセル・マッシーニ氏のレポートによると、このシャシーナンバー18415は試作車としての任務を終えたのち、1980年3月に初めて公道登録されたという。翌月にはようやく初のオーナーへと納車され、さらに6人のオーナーの手を経て、2002年にイタリアから輸出されたとのことである。

そののち、しばらくは表舞台から姿を消したが、2017年に再び姿を現し、直後にオーストラリア・タスマニアの愛好家が手に入れる。そして2020年に、今回のオークション出品者でもある現オーナーが入手するに至ったという。

今回のオークション出品に際しては多数の工場テスト資料が添付されたほか、GM製3速AT、エアコン、ミシュラン社製タイヤに対応したメートル法のアロイホイール、ルーフ側にヘッドユニットを配したパナソニック製ステレオシステム、後席用の灰皿、そしてなにより「No.00001」のエンジンナンバーが刻まれた燃料噴射エンジンなど、往時のヒストリーを物語るディテールが散見できる。

ただし、公式カタログにも「長期保管後、この車両は道路に戻る前に修復が必要であることにご注意ください」と記されているように、あくまでレストアベースというべきコンディションであることを考慮したのか、エスティメート(推定落札価格)は6万ユーロ~8万ユーロという、特異なヒストリーのあるフェラーリとしてはかなり安価な設定。くわえて、この競売においては最低落札価格を設定しない「Offered Without Reserve」とされた。

この「リザーヴなし」という出品スタイルは、金額を問わず確実に落札されることからオークション会場の雰囲気が盛り上がり、ビッド(入札)が進むことも期待できる。ただしそのいっぽうで、たとえビッドが出品者の希望に達するまで伸びなくても落札されてしまうというリスクも持ち合わせる。

そして迎えた競売では、「リザーヴなし」が裏目に出てしまった4万250ユーロ、日本円に換算すると約680万円で落札されることになった。

このハンマープライスだけを見れば、たしかに比較的安価であることは間違いないだろう。でも、このオークションでの落札は単なるスタート地点に過ぎないと思われる。

たとえば機関部を走行可能な状態に戻すいっぽう、内外装はそのまま「プリザーブド」、「サバイバー」として、歴史の積み重ねを尊重する。あるいは、マラネッロで「エスペリエンツァ」として使用されていた時代のコンディションまでフルレストアする。新オーナーの意向によって修復の目標はいろいろとあるだろうが、その前提条件として、フェラーリの歴史を物語る文化遺産を受け継いだ者には、次世代に正しいかたちで継承する責務が生ずる。あくまで筆者の私見ながら、そう思われるのだ。

もちろん、そのレストアを完遂するには「フェラーリ・クラシケ」かそれに準ずる識者の助力が必要となるのは自明の理であり、その過程では数千万円、あるいはそれ以上の費用を投資しなければならないかもしれない。

それでも、かつてニキ・ラウダも乗ったフェラーリの試作車を手に入れるというのは、「そういうこと」であると確信しているのである。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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