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2億5500万円は極めて順当。メルセデス・ベンツ「300SL」はどうしてガルウイングにせざるを得なかったのでしょうか

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: Bonhams

理想的コンディションのガルウイングは、2億5000万円オーバーで落札

このほどボナムズ・オークション社が自信たっぷりに競売のステージへと送り出したシャシーナンバー「6500176」は、1956年7月にカリフォルニア州ロス・ガトスに新車として納車された、米国仕様のガルウイングである。登録情報によると、この車両は当初「DB50ホワイト」のボディカラーに、赤い本革インテリアの組み合わせで仕上げられていた。

ここまでの段階で判明している出自をたどると、カリフォルニア州およびネバダ州で複数のオーナーを経たのち東海岸へ向かい、ニュージャージー州エングルウッドにあるサム&エミリー・マン夫妻の有名な世界的コレクションに加わった。

その過程で、このクルマはカリフォルニア州エスコンディードのクラシック・メルセデスのスペシャリスト「Hjeltnessレストレーション」社によって包括的なレストアを施された。その際、現在の「DB180シルバー」で高水準に仕上げられ、レストアされた赤いレザーのキャビンを引き立てている。

ペブルビーチ・コンクールで「ベスト・オブ・ショー」受賞歴もあるクラシックカー界の世界的名士、マン夫妻のもとで過ごしたのち、このSLは西海岸に戻される。そして近代スーパースポーツのコレクションで知られるウィリアム・“ビル”・フライシュマンのコレクションに加わり、約15年間にわたって彼のもとで保管された。さらに今回のオークション出品者である現オーナーは2022年にこのガルウイングを手に入れ、いわく「パリッとしたコスメティック」を維持しながら、この名車を存分に楽しんでいるという。

ところで、換装の正確な時期は定かでないが、オリジナルの直6エンジンは後期モデルにあたる300SLロードスター仕様のハイチューンユニットに載せ替えられている。またレストアの一環として、Hjeltness社はSL専用に開発した補助電動ファンとともに、エアコンディショナーを取り付けたのも特徴。このシステムはなかなかの冷風を吹き出すそうで、そのボディ形状ゆえに真夏に乗るのはかなり辛いガルウイング、とくに温暖な地域に住む人々にとってはありがたい装備といえよう。

くわえて、当時物のオーナーズマニュアルやワークショップマニュアル、純正ツールロール、西独ベッカー社製「ル・マン」ラジオ、伊「ナルディ」社製の純正オプションステアリングホイール、そして欠品しがちなフルアンダーボディの整流パンなど、付属品やオプション装着品も充実している。

不朽の名車、300SLガルウイング・クーペは、間違いなく「1950年代最高のスポーツカー」の称号を争う存在であり、事実上あらゆる自動車エンスージアストにとっても「史上最高の自動車のトップ10」に入る資格がある。デビュー当時から名だたるセレブリティたちに愛された300SLクーペは、こんにち、これまで生産されたスポーツカーの中でもっとも垂涎の的であり、コレクターカー趣味のベンチマークとなっている。

いっぽう、この美しく整備されたガルウイングは、見事なレストアを終えて以来、入念な手入れが施されており、「コロラド・グランド」や「カリフォルニア・ミッレ」をはじめとする名だたるツアーやラリー、ロードイベントに挑むための装備も整っている。

「このように良く整備された300SLに一度でも乗れば、なぜこの素晴らしいマシンが多くの世界的なコレクションで誇りを持たれているのかが理解できるだろう」。ボナムズ社はそんなキャッチコピーを添えて、この個体に150万ドル~175万ドルという高値安定志向を物語るエスティメート(推定落札価格)を設定した。

そして迎えた競売では、エスティメートの自信を裏づける162万4000ドル、日本円に換算すると約2億5500万円という、現在のマーケットにおける300SLガルウイングとしては、きわめて順当なプライスで落札されることになったのである。

>>>300SLを特集したonly Mercedesはこちら

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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