満を持して1クラスにステップアップし試行錯誤中
軽自動車だけで争われるレースとして人気の「東北660」シリーズ。そのなかでも新規格のNA(自然吸気エンジン)車両がエントリーできる「東北660選手権」は多くのマシンがしのぎを削っています。今回は、2023年は2クラスでチャンピオンを獲得し、2024年から1クラスにステップアップした、注目株をご紹介。まだまだ進化中というダイハツ「ミラ」のこだわりとは?
費用も抑えつつ各サーキットでいい走りができる仕様に
最高峰がゆえにテクニック的にもマシンメイクの面でもハードルが高く、一部の上級者しかエントリーしていなかった東北660選手権の1クラス。ところが2024年は下位の2クラスで活躍した若手を中心に、多くのステップアップ組が参戦し、レースを大いに盛り上げた。
開幕戦こそベテラン勢の分厚い壁に阻まれたが、いずれ頭角を現すであろうドライバーは多くいる。そのひとりが2023年の2クラスでチャンピオンを獲得した小松日高選手だ。
自身の愛車であるL275V型ダイハツ「ミラ」は2024年シーズン、仲間たちと東北660耐久レースで使うことが決定。スプリントレースに出る車両がない彼をデモカーのドライバーに起用したのが、2023年は細田駿也選手をサポートして1クラスを制した「オートリサーチ米沢」だった。
同社の安達代表はかねてより、技量だけなら今の若手も十分に1クラスで通用するはずと考えており、最大のハードルである金銭的な負担を減らすため1.5クラスとでもいうべきデモカーを製作。初めて東北660に参戦したときから小松選手の成長を間近で見続け、安心してデモカーのシートを預けられる存在になったと語る。
あくまで目的は一般のエントラントに対するアプローチということもあり、製作コストの抑制と2クラスや3クラスと同等の耐久性の確保は大前提である。
費用対効果がもっとも高いと判断したポイントは、1クラスだけが変更を許されるギヤ比だった。しかし前から1クラスを戦うダイハツ勢が使っている、社外のギヤはすでに生産を終えている物が多いうえ、中古品もプレミアが付いて結構な高値になっている。それではコンセプトに反するため、別の組み合わせを探ることにした。
ところが開幕戦の舞台となったスポーツランドSUGOでは、タイムの詰めどころである最終コーナーのギヤ比が合わない。シェイクダウンと割り切りつつ小松選手も安達代表も悔しいレースとなり、エビスサーキット東コースで行われる第2戦へ向けて仕様変更の真っ最中だ。安達代表はこう語る。
「東北660選手権は3つのサーキットを転戦します。コースに合わせて毎戦ギヤを組み替えるのがベストとはわかっていますが、それではコストが跳ね上がり、若手ならずとも一般のユーザーには非現実的です。どのコースでも70~80点のギヤ比が落としどころでしょうか」
そしてエンジンは中古でコンディションも不明なため、オーバーホールを兼ねて内部パーツを同形式から流用。本体はパワーのカタログ値こそ低いものの圧縮比が高く、多くのベテランが使っているKF-VE4と呼ばれるモデルに変更。ただしコンロッドが細いなど耐久性に関しては疑問が残る部分もあり、初期型であるVE1やVE2の内部パーツを適度に組み合わせて対策している。
また1クラスはフルコンでの制御が認められており、コストパフォーマンスが高いリンクECUを選択。レブリミットはノーマルより500rpmだけ高め、組み替えたギヤを効果的に使えるようセッティングした。
マシンの軽量化も課題のひとつ
もうひとつの大きなテーマは軽量化だ。開幕戦のときに計測した車重は689kgで、ライバルたちに比べて不利という現状。そこで620kgを目標に外装パーツの変更や補強パーツの取り外し、また安全性に影響を及ぼさない部分の肉抜きなどを進めていく。
安達代表の努力に応え小松選手もダイエットに励んでいるようで、次戦ではクルマも人も生まれかわった姿を見られそうだ。現在のベテラン勢はギヤ比を特定のコースに絞り、スポット参戦しかできないケースも増えている。とはいえ年間4戦のシリーズが組まれてる以上、シリーズを制してこそ本当の強者といっていい。
「自分で走りたい気持ちももちろんあります。でも今は若い子たちにできるだけ負担を少なく、レースを楽しんでほしいという思いのほうが強いですね」
と安達代表は語る。そしてデモカーで試行錯誤しつつ蓄積するであろうノウハウを、ほかの参加者へと確実にフィードバックしていくことで、1クラスへ気軽にステップアップできる日が来るはずだ。ストレスの溜まった開幕戦から2カ月半、第2戦での捲土重来を大いに期待したい。