モータースポーツは健常者と障がい者が一緒に楽しむことができる
障がい者のモータースポーツ参戦というと特別なことのようにも思えますが、このダイバーシティの時代、障がいを持った方の競技参加に対し、競技者もそれを行う主催者もその存在を認め、理解することが求められています。そのため、国内モータースポーツを管轄するJAFでは、障がい者であることを示すピクトグラムの表示の義務化など、その制度を進めているのです。
車いすにヘルメット姿のピクトグラムとは?
ヘルメットをかぶった車いす姿のピクトグラムを見たことがあるだろうか? これはモータースポーツの現場で世界的に使われているアイコン。身体に機能障がいをかかえた競技者が乗車していることを示すものである。2024年5月19日(日)に愛知県豊田市下山地区で開催となった中部・近畿地区戦開幕戦「豊田しもやまラリー2024」でも、そのユニバーサル・ロゴを掲げている車両があった。
大弥保憲・佐土原慶一組が乗る「No.28 GRGarage白山インターDL北陸Kistヤリス(MXPA10)」には、ユニバーサル・ロゴが車両四方に貼られている。コ・ドライバーとして搭乗している佐土原選手は、下半身の麻痺により4級の下肢障がいがあり、これによりユニバーサル・ロゴの掲示が必須となっているのだ。
1958年生まれの佐土原慶一選手は現在66歳。以前はドライバーとしてもモータースポーツを楽しんできている。2023年に引退を考えていたが、全日本ラリー選手権にコ・ドライバーとして参戦の経験もある選手であることから、大弥保憲選手からスポットでコ・ドライバーとして乗ってほしいといわれて参戦。さらに今シーズンも地区戦に出るからという依頼を受けて、継続して大弥選手のコ・ドライバーとしての選手生活を続けている。
そのモータースポーツライセンスはJAFのメディカル部会での適性確認の後に発給されるが、ライセンス証とともに、その競技許可証取得の書面も同時に携行しなければならない。さらに、参戦するイベント主催者にもエントリーの際に資料の提出をしている。
障がい者が乗車していることを示すユニバーサル・ロゴについては、2022年1月1日のJAFスポーツ資格登録規定の改正により、同規定第3章第7条6「競技運転者許可証を取得する適性についてJAFの審査を受け、承認を得た身体に障がいのある者は、FIAが所管する委員会によって承認された識別のためのユニバーサル・ロゴをオフィシャルに見えるよう、車両の前後及び両側面に掲示しなければならない」と定められている。
競技に使われるラリーカーは車内にロールバーを這わせており、健常者でも乗り降りは一般車両のようにはいかないうえに、機能障がいを持っているとそれも簡単ではない。さらに競技中に事故などがあった場合、自力で車両から出られなければならないため、佐土原選手は自身で確認をしたうえで参戦をしているという。2022年の競技中には車両が1回転するクラッシュが発生したが、その際もきっちり脱出できることの確認ができた。
佐土原選手は次のように笑ってコメントした。
「タイヤ交換などの作業では健常者のようには速くできないから、本気で勝ちを狙っている選手の横には乗りませんよ」
モータースポーツは健常者と障がい者が一緒に楽しむことができる競技ではあるが、ラリーの現場では、たしかにそういった点もある。それでもモータースポーツを楽しんでいきたいというすべての皆さんが楽しめる世界になっていってほしいと願う。それが実現することに期待したい。