幼少期に見た軽自動車レースに心を奪われた
若者からベテランまで、多くのレーサーが参戦する軽自動車だけのレースが「東北660」シリーズです。今回は、レースデビューしたばかりの若者をご紹介。走る楽しさはもちろん、レースの厳しさなども経験し、成長が楽しみな選手のひとりです。大学時代に行っていたというドラテク向上のための練習方法とは?
軽自動車レースを熟知したプロショップからサポートを受ける
若者のクルマ離れなんて言葉が陳腐に感じるほど、学生や20代のエントラントが多い東北660選手権。2023年シーズンに行われた特別戦でデビューを果たし、2024年から本格的に参戦する川越嗣土選手もそのひとりだ。
両親を筆頭にクルマ好きの親族に囲まれて育った彼が、初めてサーキットに連れていってもらったのは3~4歳のころ。なかでも心を惹かれたのは仙台ハイランドのKカー耐久レースで、熱いバトルを繰り広げる軽自動車の姿が記憶に残っているという。
地元の高校を卒業した川越選手は宮城県の大学に進学。スポーツランドSUGOが近いこともあって東北660シリーズの存在を知り、自分も同じステージで戦いたい思いが募ってレースカーを探していたところ、憧れだったKカー耐久にも参加していたプロショップ「鈴木自工」と知り合う。
代表の鈴木 茂さんも東北660選手権で活躍していることもあり、どんどん軽自動車レースの面白さと奥深さに魅了されていく。そんな彼が手に入れたマシンはHA23型スズキ「アルト」で、かつて東北660選手権で使われていたレースカー。鈴木さんらのサポートを受けながらデビュー戦を2023年の特別戦に定め、レース前日の練習走行で初めてのサーキット走行を経験する。
結果は軽いコースアウトこそあったものの、2分6秒台と初走行ならば上出来なタイム。車載動画でライン取りやシフトチェンジのポイントを勉強し、実際に走っては自身のドライビングに合わせて修正を加えていく。
片道2時間の通学でドラテクを学ぶ
人生初のサーキットでありながら落ち着いて走行できたのは、幼少期から慣れ親しんでいる場所という理由だけではない。大学4年のとき実家へ戻った彼は片道2時間をかけて宮城県まで通学しており、その際に父から運転に関する何かしらの「テーマ」を与えられていた。ブレーキに負担をかけないことを意識する、毎日の所要時間をできる限り揃えるなど、まさに英才教育といっていい1年間だった。
あえてワインディングの多い一般道を使ったのも、運転の基礎を身体で覚えさせるためだったのだろう。クラッシュという洗礼も受けた翌日のレースは、途中でドライバー交代がある60分のセミ耐久。タイヤやブレーキの「タレ」を体感させるという周囲の親心で、予選を担当したのに加えて決勝も50分はひとりで走り抜いた。どんどんグリップが落ちて滑りやすくなるタイヤや、止まらなくなるブレーキを実感できたと川越は話す。
リザルトは完走したなかで最下位だったとはいえ、スタート前の緊張感やライバルたちとの駆け引き、タイヤやブレーキを持たせるマネージメントなど、レースの本番でしか得られない経験は多かったはず。本格的なデビューとなる今シーズンはタイムや順位はもちろん、愛車を自分の好みにセットアップしていくことも大きな目標だ。さらにボンネットやリアゲートの軽量化や、排気系のリメイクも視野に入れている。
そして目標は参加するクラスこそ違えど、鈴木さんの前でチェッカーを受けること。東北660選手権に踏み込むきっかけを作ってくれた、そしてサーキットの楽しさを教えてくれた憧れの人に、成長した自分の姿を見せる日はそう遠くない!