世界で1台、タルガトップのフェラーリ「テスタロッサ」
高級クラシックカーを取り扱うオークションでは、その舞台となる街の嗜好や雰囲気を反映した出品車両が選ばれることも少なくありません。2024年5月4日、名門「ボナムズ・オークション」社がF1マイアミGPの付帯イベントとして、レースと同じく「マイアミ・インターナショナル・オートドローム」で開催した「MIAMI」オークションでは、陽光あふれるフロリダ州マイアミにピッタリと思われる、希少なデタッチャブルトップ仕様のフェラーリ「テスタロッサ」が出品されました。今回はそのモデル概要と、注目のオークション結果についてお伝えします。
フルオープンじゃなくて、タルガトップのテスタロッサとは?
同時代の「ピッコロ・フェラーリ」ことV8モデルとは異なり、フェラーリは「テスタロッサ」のオープントップ版や、いわゆる「タルガトップ」を持つ「スパイダー」を正規のカタログモデルとして用意することはなかった。
ところが、かつてフィアット・グループ総帥として君臨した「アヴォカート(弁護士)」こと故ジャンニ・アニエッリが、自身の会長就任20周年を記念して、ピニンファリーナにテスタロッサをベースとするスパイダーを特注。フェラーリ公認のもとワンオフ製作されたのを皮切りに、イタリア国内のスペシャルコーチビルダー「パヴェージ」や、チューニングカーでも有名な「ケーニッヒ」に「ローレンツ&ランクル」らのドイツ勢、さらにはアメリカの「ストラマン」なども、特別なクルマを熱望する裕福な顧客のために、テスタロッサのルーフを取り去ったスペシャルカーの製作に続々と乗り出してゆく。
そんななか、ルノー「シュペール5」をベースとするカブリオレ版を、ルノーの準カタログモデルとして開発・生産したことで知られるベルギーの「EBS(Ernst Berg Styling)」社は、ほかのスペシャリストとは一線を画した方法論で、テスタロッサ・スパイダーをワンオフ製作することになった。
かつてはレーシングドライバーとしても活躍していたオランダ人、エルンスト・ベルクがベルギー・ブリュッセルに開業したEBS社は、通常のソフトトップ式フルオープンへの改造を得意としていたとのことである。
しかし、アメリカの裕福な顧客(当時のイタリアの雑誌には「ダラスの石油業者」と紹介されていた)のリクエストに応じてカスタマイズしたテスタロッサでは、ルーフ後半の「バットレス」を残す、より安全重視なアプローチを選択。ルーフから60cmの部分を切り取り、2枚の独立した取り外し可能な樹脂製トップへと作り替えた。
ルーフが外された分を補うため、コンパートメントには入念に設計されたブレースが追加され、剛性が保たれている。当時の自動車専門誌『Sport Auto』誌のインタビューを受けたエルンスト・ベルクは、「私たちのクルマはクーペと同じように剛性が高い」と主張していたそうである。
ファイルされている当時の図面のコピーには、このブレースの構造が描かれており、適切に設計されたことによって車重の増加はわずか50kgに留められたそうで、実際に当時のレポートでは、スタンダードのテスタロッサと遜色ない走りっぷりを披露した旨が報告されていたという。