連続走行の世界新記録を樹立
12番目のシャシーナンバー60551は過酷な信頼性試験をクリアし、プロモーション活動の中心的役割を果たした。さらに1907年に行われたスコットランドの信頼性試験では、一度も故障することなく約3200kmを走破した。その直後にはノンストップで約2万4000kmを走破し、連続走行の世界新記録を樹立した。
1911年には信頼性試験用に設計された新バージョンのシルバーゴーストを発表した。このモデルはロールス・ロイスの挑戦心から、スタートからフィニッシュまでトップギアで固定されていたという。シャシーナンバー1701は平均時速32km/hで、当時としては破格の燃費を記録して優勝した。その年の暮れには軽量な流線型のボディを装着し、サリー州のブルックランズ・サーキットで時速163km/hを記録し、ロールス・ロイス史上初の時速160km/h超えを達成した。
40/50 H.P.最大の勝利は、1913年のことであった。3台のシルバーゴーストと個人参加の1台からなる「ワークス・チーム」が、高速耐久走行の過酷さを想定して同じ仕様で特別に準備され、オーストリアを発着点とするその年のアルパイン・トライアルで1位と3位を獲得したのである。
その後、競技車両の市販モデル「コンチネンタル」を発表。(一般には「アルペン・イーグル」として知られていた)コンチネンタルはその後、スペインのロールス・ロイス代理店に任命されたばかりのドン・カルロス・デ・サラマンカが運転し、1913年に初開催となったスペインGPで勝利を収めた。2位と3分差をつけての勝利は、長らくフランスメーカーが独占していたスペイン市場にロールス・ロイスが参入するきっかけとなった。
初期モデルの中で最大の現存台数を誇る
これらの完璧なパフォーマンスと静粛性とスムーズな操作性により、シルバーゴーストは「世界最高のクルマ」という評判を確立した。1907年から1925年にかけて英国で6173台、さらにマサチューセッツ州スプリングフィールドにある工場で1703台が製造され、商業的大成功を証明した。
シルバーゴーストは長い生産期間の中で比較的大量に生産されたため、ロールス・ロイスの初期モデルの中で最大の現存台数を誇る。それ以上に印象的なのは、新車時のパフォーマンスを今でも発揮できるということだ。2013年にはオリジナル・チームのシルバーゴーストが2900kmに及ぶアルパイン・トライアルを走行した。2021年にはシャシーナンバー1701が110年前と同じようにトップギアで固定され、ロンドンとエディンバラ間の記録的な走行を再現した。
AMWノミカタ
今回はシルバーゴーストに関する話であったが、つねに最高を求めて改良を続けていたヘンリー・ロイスのせいで、製造効率が悪くなったというエピソードはいかにもロールス・ロイスらしい話で面白い。そして商売人のクロード・ジョンソンがひとつのモデルに注力することを進言し、しかも40/50 H.P.というつまらない名前に「シルバーゴースト」と命名した話を聞くと、この2人があってのロールス・ロイスなのだということがわかる。
文中に登場するシャシーナンバー60551はその後一般ユーザーの手にわたり50万km以上走行されたが、1948年にロールス・ロイス本社が購入したという。今世紀に入ってからはフォルクスワーゲン・グループによるクルー工場買収の一環としてベントレーの管理下にあったが、2019年に再び個人に売却され、現在は英国内にあるという記事を確認した。創業120周年を迎える2024年に再びその雄姿を見たいものである。