セールスとの絶妙な距離感がテスラには合っている
室内にあるモニターはこれまでのクルマでは見られなかったほど大きく、前後左右を走るクルマのシルエットや横断歩道を渡る人の姿、隣に並ぶオートバイの姿までが映像化されて、自分の周りの走行環境を瞬時に確認することができる。なんてわかりやすいんだ。こんな装備は2000万円するラグジュアリーカーでも付いていない。
「あぁ、新しい……」
試乗を終えてショールームに戻るが、セールスの猛烈なアタックがない。詳細な車両説明もないし(もちろん質問に対しては的確に答えてくれた)、テスラの素晴らしい世界観を語ることも、根掘り葉掘りプライベートなことを聞かれたり、下取り査定を要求されたりも一切なかった。もちろん来場記念品などない。
そして妻と2人でいただいたペットボトルの水を握りしめてショールームをあとにするのだが、率直な感想は「意外と心地よかった」。そしてショールームの接客もこれでいいんじゃないか? と思えてきた。もちろんブランドによっては丁寧な接客や説明を求めるカスタマーもいることは理解するが、テスラを購入する人にはこの絶妙な距離感が合っていると感じた。「お茶のひとつも出てこない!」なんて怒るような人は、そもそも縁がないブランドなのだろう。
スマホでポチッとデポジット入金
セールスの方の説明の中でびっくりする話を聞いた。1万5000円のデポジットを入れておけば、車両をキープでき、納車直前までキャンセルが可能だというのだ。つまり、最終的な購入判断を先延ばしにできるという。聞けば、オプションの少ないテスラはキャンセルを食らっても次のカスタマーへのマッチング率が高いので、在庫リスクが低くそのようなことが可能だという。カラーやオプションの選択の幅が多いブランドでは、考えられないサービスである。
「あぁ、欲しい……」
帰宅後、私は好きな仕様を厳選して、速攻スマホでポチッと1万5000円をデポジット入金していた。なにしろ、いま買わなくてもいいんだから、1万5000円で納車までの半年間は楽しい夢が見れる。この間にいろいろ情報収集して、自分に合わなかったら直前でキャンセルすればいい。
免許を取って30年以上、それなりに様々なクルマ体験をしてきたつもりだが、これまでの常識や慣習が大きく変わっていることを身をもって感じた瞬間だった。プロダクトも販売方法も取り巻く環境も大きく変わりはじめている。それが良い悪いではなく、そういう時代の変化を認めて自分に合うか合わないかでクルマ選びもすべきなのだろう。
試乗中、細かい車内の質感や乗り心地を確認するのを忘れた。電費の話も聞き忘れた。でも、それでもいい。そんなこと以上にテスラが提供する驚きの瞬間をもっと体験してみたくなった。