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さよならフィアット「500」アバルト「595/695」。いまが新車購入のラストチャンス! そしてEVモデルよ、こんにちは【週刊チンクエチェントVol.39】

今は問題なく稼働しているゴブジ号

フィアット500はやっぱり偉大なクルマ!

名古屋の「チンクエチェント博物館」が所有するターコイズブルーのフィアット「500L」(1970年式)を、自動車ライターの嶋田智之氏が日々のアシとして長期レポートする「週刊チンクエチェント」。第39回は「クラシック・チンクエチェントのEVモデルは楽しいぞ!」をお届けします。

現行500とアバルト595/695シリーズがいよいよ終売

しばらく会ってない古い友達からメールが来て、その中にこんなひと言が記されていた。

「週刊チンクエチェント、見てるよ。ときどき面白い。特に立ち往生するとき。それにしても話がちっとも進まないよなぁ(笑)」

えーっと……まぁそのとーり、である。今でこそ(だいたい)調子よく走ってくれてはいるけれど、ちょうどレポートしてる時期はチータ(水前寺清子)もビックリしちゃうくらいの三歩進んで二歩下がる“365歩のマーチ”状態。それでも読んでる人の多くが“あぁメンドクサイ”と感じそうな過剰な深掘りとかは趣旨がちょっと違うから避けて、なるべく早めに“今”へと追いつこうとしてる。それだけ“今”に至るまでいろいろあった、ということなのだ。

それに加えてこの連載、フィアット系やアバルト系の最新トピックについてはそのたびに触れていく、という使命を(勝手に、だけど)背負ってる。途中にそうしたレポートを(誰に頼まれたわけでもないけど)挟むから、そりゃ話が滞りがちにもなるってものだ。

今回もそうしたトピックを少々。さすがにコレを無視することはできないもん。何と……というほどでもなくて“いずれ……”と思ってはいたことだけど、現行フィアット500、そしてアバルト595/695シリーズがいよいよ終売、ということになっちゃったのだ。フィアット500、アバルト595/695シリーズともにこの5月いっぱいで日本向けの生産が終了し、フィアット/アバルトの正規ディーラーでの在庫がなくなり次第、新車で購入することができなくなる。

んー、何ともいえない気分だ。例えば愛は永遠に続く(ことがもしかしたらあるかもしれない)けれど、基本、モノゴトに永遠なんてものはない。いつか必ず終焉を迎えるのだ。が、いざそのときを迎えてみると……。

思えばフィアット500については2004年に公開されたコンセプトモデルのトレピウーノの写真を見たときからほんのりと心惹かれ続け、2007年のトリノでの大掛かりな発表会と国際試乗会でイタリア人にとって“チンクエチェント”というのがどれほど大きな存在かということやめちゃめちゃフレンドリーなくせして意外にやるヤツだということを確認し、2008年に日本に上陸を果たしてからも記憶にあるだけで軽く3万kmを超える距離を試乗してる。アバルトに関しても2009年の国際試乗会で初めてその弾けっぷりの気持ちよさを体験して以来、ずっと心のどこかに居座り続けていて、これまた限定車を含むほとんどすべてのモデルに試乗している。

今さらこのふたつのモデルの魅力などをクドクド並べ立てる気はないけれど、ひと言でいうならどちらも素晴らしく味わい深いヤツなのだ。それをこれまでのいきさつからたっぷり知っちゃってるつもりになってるし、朧気ながらいずれツインエアのフィアット500Cかアバルト595Cツーリズモあたりをアシにしたいと考えてたところもあるし、個人的にも結構強めの思い入れがあったりする。

何だかちょっとばかり複雑な、どこか喪失感にも似た気分。救いなのはフィアット500が日本国内でおよそ13万台、アバルト595/695は同じく2万8000台としっかり売れてきたモデルなだけに、ユーズドカーのタマ数もわりと豊富なこと。しばらくの間は引っ越し貧乏として暮らさねばならない僕としては、今後はそこを狙っていくことになるのだろうな、と思ってる。何だかこれまで以上に“欲しいなぁ……”という気持ちが膨らんでるから。それはそれとして、フィアット500やアバルト595/695を新車で手に入れたいという人は、急いで近くのディーラーを訪ねてみるべきだと思う。

ともあれ、今もまだ販売面からいえば好調な状況を維持してるふたつのモデルの日本国内での終売は、本国ステランティスの電動化モデル推進というグローバル戦略に添ったもの。ステランティス・ジャパンが勝手に決めたわけではない。フィアット・ブランドは“フィアット500e”、アバルト・ブランドは“アバルト500e”という、これまで築いてきたそれぞれのブランドの世界観を見事に体現した、しっかりしたキャラ立ちと見て楽しい乗って楽しい性格を両立した素晴らしいバッテリーEVが、今後は主力となっていくことになる。

いや、マジメな話、引っ越した先の周辺が絶望的といえるくらい充電環境に乏しいので所有することはまったく現実的ではないのだけど、どちらの500eもフトコロが許すなら欲しいくらい。仮にバッテリーEV以外は走らせたらダメという時代が(来ることは絶対にないと思うけど、もし)来たら、僕はこのどちらかのモデルを選ぶだろう。クルマの使い方や住環境とその付近の充電インフラ次第というところはあるだろうけど、ヒト様にも堂々オススメできるくらい出来映えはいいし、何せホントに楽しいのだ。まだステアリングを握ったことがないという人は、まずは試乗するだけでもいいから近くのディーラーに立ち寄って走らせてみるべきだと思う。

……というところで終わってしまったら、『週刊チンクエチェント』っぽくないよね。バッテリーEVの話が出たからには、やっぱりコレに触れないわけにはいかない。クラシック・チンクエチェントのバッテリーEV、である。

AT限定免許でドライブすることが可能

実はチンクエチェント博物館では、2021年からクラシック・チンクエチェントの動力源を2気筒エンジンからバッテリー+モーターに換えたコンヴァージョンEVを、日本に上陸させている。イタリアのチンクエチェント・スペシャリストにオーダーして製作させてるのだ。

神戸まで何とか自走していったゴブジ号が結局はゴブジではなく、帰路に名古屋の博物館に預かってもらい、そこから静岡のスティルベーシックに積車で運ばれていった2021年の10月半ば頃。僕は前年のプロトタイプに続き、“フィアット500ev”のプロダクトモデル第1号をテストする機会に恵まれた。

内外装は基本、オリジナルのチンクエチェントのまま。モーターは10kW(13.6ps)とパワーこそ控えめだけど、モーター特有の強力なトルクがあるから、オリジナル・チンクエチェントの比じゃなく力強い走りを味わわせてくれる。内燃機関のオリジナル・チンクエチェントはショートめの1速から2速、3速とつないでスピードに乗るまでがちょっとばかりじれったいのだけど、この500evはじれったさがゼロ。きわめて滑らかに力強く加速し、実に心地よく走ることができる。しかも、である。AT限定免許でドライブすることが可能なのだ。

おもしろいことにオプションも豊富で、電子仕掛けのメーターや走行モード切り替えシステム、Bluetoothを使ったオーディオシステム、キーレスエントリーなどなど現代的な諸々も用意されてたりもする。まぁいうなればオートクチュールみたいなもので、完全なる自分仕様に仕立ててもらうことができるわけだ。

コンヴァージョンEVゆえに航続距離はおよそ100kmと短いし、充電時間は家庭用200Vで約9時間と結構長いのだけど、買い物だったり送り迎えだったり友達の家に遊びに行くのだったりという日常的な暮らしの範囲で走らせるにはこと足りるレベルにあると思う。

乗り味? いや、車重が640kgとオリジナル・チンクエチェントより100kg前後ほど重いことが効いて重厚感のようなものが感じられるところはあるのだけど、それでも不思議と“やっぱりチンクエチェントはチンクエチェントだ”って感じてしまうほどに“らしい”フィーリング。クラシック・チンクエチェントならではのルックスや存在感から来る独特の雰囲気と、バッテリーEVならではの滑らかさと力強さ、そして“らしい”乗り味。何だかとっても幸せな気持ちにさせてくれる電気自動車なのだ。

たしかに価格的な面からいうなら贅沢といえば贅沢なシティコミューターということになるのだろうけど、唯一無二の存在であることを考えると、だいぶ魅力的な存在であるのも間違いない。興味を持った人はぜひともホームページにアクセスして、詳細をチェックしてみることをオススメしておこう。

それにしても……内燃エンジンを積んだ新車とユーストカー、メーカー謹製のバッテリーEV、趣味人がスペシャリストに作らせるコンヴァージョンEVと、選択肢はたくさん。同じ世界観を持った同じ名前のクルマで、ここまで選択肢が豊富なモデルってほかにある?

そう考えると、フィアット500ってやっぱり偉大なクルマなんだな、という気持ちがさらに強くなってくるじゃないか。

■協力:チンクエチェント博物館
https://museo500.com

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