ブリストル研究所代表・涌井清春氏の想いとは?
東京都文京区弥生、東京メトロ根津駅からさほど遠くない場所にひっそりと開かれている「ブリストル研究所」。その一般開業日である(ほぼ)毎週日曜日には、筆者自身もオフィスに手伝いに行くことが多い。つまり、涌井氏とは年がら年じゅう顔を合わせているうえに、ブリストル研究所にも構想段階から関与しているのだが、ここでは自動車ライターの立場から、あらためてお話を伺ってみることにした。
まずは涌井氏の代名詞でもあるロールス・ロイス/ベントレーから、ブリストルへと移行した理由について尋ねた。
「そうですね……。英語の辞書にも載っているロールス・ロイス、そして英国では連綿と続くW.O以来のクラシック・ベントレーを“乗れるクルマ、所有するだけでなく走って楽しいクルマ”として日本で認知させることには貢献できたかな……と思っています。
ただ、年齢的には、いわゆる“終活”を考える時期に入りましたが、それでもまだ全部辞めて隠居なんてつまらない。生来のコレクター気質、クルマ好きの情熱は持ち続けている。だから、ここで今いちど自分ひとりに立ち帰って、年齢相応、あるいは無理をしない自分相応のことをしてみたいな、と思うようになりました」
ブリストルというブランドとクルマの、どんなところに惹かれた?
「往年のブリストルの販売拠点は、ロンドンでも一等地として知られるケンジントンに設けたショウルーム1カ所のみという、不思議なメーカー。派手な宣伝をすることもなく、ひそやかでありながら、それでも一流の文化人やアーティストたちから支持され続けた。そんな、知る人ぞ知るブリストルというブランドが、とても魅力的に思えてきました。
英国では一流として認知されつつも、通人以外にはほとんど知られていない。でも、古典的なプロポーションで、スポーティ。乗っても眺めても官能的なブリストルは私の終活、というより総括的な活動の対象として、とても好ましく思えてきたのでしょうね」
クルマ趣味という大洋の片隅でポツンと竹竿を出す老人が、思い描く最後の姿
そして締めくくりとして、ブリストル研究所のあり方について尋ねてみた。
「ワクイミュージアムの前身である“くるま道楽”を開いた1980年代末ごろから、私は生来のコレクター気質で、周囲からはクルマを売りたがらないシャイな店、お茶でもしながら、ただお客さんと話しているだけの店……、なんて言われてました(笑)
今のブリストル研究所についても、ブリストルを売りたいというよりは、ブリストルを掘り下げて、できれば少し集めながら、ディーラーともいえないようなかたちで、ひっそりブリストルのある個人事務所を構えたい、との思いからスタートしました。だから“これからブリストルを広めて売るぞ!”というのは、ちょっと違うんですね。
商売でいうなら、ブリストルなんておそらく勝算はありませんよ。それでもクルマ趣味の多様で茫洋とした広い海に、老人が片隅でポツンと竹竿を出している、まるで水墨画の老人のようなイメージで自分を思い描いています。魚を釣ることは目的ではなく、片隅でポツンと竿を出していることが、おそらく今の私がしたいこと、趣味人として描く最後の姿なのです。
もちろん、これまで人生をともにしてきたロールス・ロイスとベントレーに、愛着がなくなったわけではありません。ただ、極東で古いブリストルを見つめている人間がいる、という遠い灯台のような存在が、遅ればせながら今からでもあってもいいのではないか……? と考えるようになったのです」
そんな涌井氏の思いのもとに開設されたブリストル研究所。もしもこの記事を見て、少しでもご興味お持ちいただける方がいらっしゃれば、ぜひともご遠慮なくコンタクトを取っていただきたい……、と切に願うのである。
■ブリストル研究所
一般開業日:(ほぼ)毎週日曜日
TEL:03-5801-0213(予約制)
https://www.mk-wakui.com