正真正銘のワンオーナー車
1980〜1990年代の「ヤングタイマー・クラシック」が、クラシックカー・マーケットの主役の一端を担うようになって久しいです。この時代には欧州のみならず日本からも数多くの魅力的なクルマたちが続々と誕生し、今や愛好家にとってのコレクターズアイテムと化していますが、今回はその時代のドイツ代表として、英国の「アイコニック・オークショネアーズ」社が、2024年5月29日に開催したオークションに出品したBMW「M3コンバーチブル」をピックアップ。そのモデル解説と、注目のオークション結果についてお伝えします。
M3史上初めて6気筒を搭載した第2世代は、どんなクルマだった?
1992年のパリ・サロンにて初公開されたE36系「M3」は、BMW史上屈指の名車といわれるE30系M3の後継車である。
E36系「3シリーズ」に共通する新しいデザインは、より広い室内空間と快適な乗り心地、そしてデイリーユースにすぐれた実用性を備えていたが、最大のトピックは、FIAグループAのホモロゲートを目的としたE30系M3が、モータースポーツに適した4気筒16バルブの2.3Lないしは2.5Lのエンジンを搭載していたのに対して、「BMW M」の開発による直列6気筒DOHC 24バルブエンジンを搭載していたことだった。
新しい6気筒エンジン「S50B30」型は、当初2990ccでスタート。先代M3を大幅に上回る286psを発生した。
ただし、ブリスターフェンダーと特別なリアスタイルを与えられていた前任モデルと比べると、E36系M3のコスメチューンは控えめなもので、空力的な形状とされた左右ドアミラーにフロント&リアのバンパーエプロン、そして彫刻的なデザインの17インチホイールなどわずかな装飾が施されただけの、まさに「羊の皮を被った狼」であった。
さらにE36系M3では、増大したパワーに応えるために標準の3シリーズより30mm低くローダウンされ、ハンドリングとロードホールディングが大幅に強化された。
でも、もしもこれらの違いに気づかなかったとしても、同時代の「325i」用直6 24Vエンジンを100ps近くも上回る圧倒的なパワーは、依然としてM3が特別なBMWであることを物語っていた。
デビュー翌年の1993年には、E30時代には限定生産の特装モデルだったコンバーチブル(仕向け地によっては「カブリオレ」と呼ばれる)モデルが正規のカタログモデルとして追加され、オープンエアの魅力が加わった。
さらに、その2年後となる1995年にM3はマイナーチェンジを受けたが、もっとも大きな変化は直6エンジンの排気量が3.2Lに拡大されたこと。3201ccの「S50B32」型エンジンは1Lあたり100psを超える321psを達成し、新たに6速化されたトランスミッションと組み合わされる。
なお、このE36後期モデルについて、一部の仕向け地では「エボリューション」と命名されていたそうで、アイコニック・オークショネアーズ社でもその表記に倣っている。
そして2年後の1997年には、BMWが「フォーミュラ1で培った技術をフィードバックした」と標榜する、ATモードつきシーケンシャル式トランスミッション6速「SMG」を追加したのち、1999年春に生産を終えたといわれている。