世界中のクラシックカーレースで好成績
2024年5月に、アイコニック・オークショネアーズ社が、英国ノーサンプトン州のシウェル飛行場で開催したオークションに出品された「3.0CSLバットモービル」は、1980年代後半にツーリングカーレーサーの故ティム・バスビーによって3.0CSロードカーから改造されたもの。しかし、その後35年間にわたって世界中のレーストラックで数々の好成績を収めてきた個体でもある。
2004年、このマシンはアイコニック・オークショネアーズ社主であるニック・ホエールに売却され、ニックの親友であるイアン・ゲストと共同で所有することになった。このふたりは、パトリック・ピーターの「ピーター・オート」が主催するクラシック耐久レーシング・シリーズ「CER選手権」に参戦。2004年と2006年の「ル・マン・クラシック」でもクラス2連勝を飾るなど、ヨーロッパ中でこのマシンを走らせた。
また、2006年のル・マン・クラシックでは、栄誉ある「インデックス・オブ・パフォーマンス(性能指数)」賞を受賞し、モンツァ、シルバーストーン、スパ・フランコルシャンでもクラス優勝を果たしている。
その後、このマシンはアラン・タイスに売却され、「マスターズ・シリーズ」における数シーズンで彼のレース活動を成功裏に支えたのち、2013年にロック界のレジェンドにして世界的な自動車愛好家、「ジャミロクワイ」のジェイソン・ケイに譲渡された。
フェラーリとクラシックBMWを愛してやまないことでも知られるジェイ・ケイは、所有期間中、この「バットモービル」のメカニカルパート維持に多額の資金を投入し、シルバーストーン・サーキットなどでのサーキット走行を思う存分に楽しんだという。
しかし2017年、ジェイ・ケイはアイコニック・オークショネアーズ社にバットモービルを「レース・レトロ(Race Retro)」オークションに出品するよう依頼する。そしてそのオークションで落札したのが、今回のオークション出品者となった現オーナーだった。
2021年初頭に最後のメカニカル・リフレッシュを行う
現オーナーはその後、ヨーロッパのクラシックカーレースシーンに復帰するための準備を、クラシックBMWのスペシャリストである「ラランカ・エンジニアリング(Laranca Engineering)」社に託した。
同社は、ヒストリックモータースポーツのより過酷な現代的基準に適合させるため、6桁ポンド以上の資金を投入し、マシンを徹底的にブラッシュアップした。そののち、FIAドキュメントが発行され(GB11382)、2027年12月31日まで有効となっている。
現在の所有者のもと、この「バットモービル」はヨーロッパ各地で繰り広げられるピーター・オート系サーキットイベントに参戦し、好成績を収めてきた。また、同じくピーター・オートがオーガナイズする「ル・マン・クラシック」にも招待されたが、残念ながら現オーナーは現在南米に住んでいるため、エントリーはできなかったという。
結局バットモービルは、2021年初頭に最後のメカニカル・リフレッシュが行われたのち、それ以来レースには出ていないとのことである。
アイコニック・オークショネアーズ社は、「ル・マン・クラシック」を含む世界最高峰のクラシックカーレースにも参加の権利を有することにくわえて、レプリカ製作に掛かった費用、同じスペックの3.0CSL仕様車のマーケット相場価格、さらに35年以上にわたるレース実績などを考慮して、16万ポンド~18万ポンドというエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが、実際の競売では思うようにビッド(入札)が進まなかったのか、エスティメート下限をわずかながら下回る15万1875ポンド。日本円に換算すれば約3030万円という、出品者側にとってはいささか不本意、購入者にとってはリーズナブルな価格で落札されるに至ったのだ。
この落札価格は、ロードバージョンの3.0CSLの相場価格よりも少し高いという程度のもの。たとえクラシックカーの世界でも尊敬されているスーパーセレブリティ「ジェイ・ケイの元愛車」という肩書きがくわえられようとも、やはり後世にモディファイしたレース仕様車では、このあたりに落ち着くのが順当なのかもしれない。