英国を次世代バッテリー技術の「ハイパフォーマンス・センター・オブ・エクセレンス」に
マクラーレン・オートモーティブのマイケル・ライターズCEOは、既存の英国のサプライチェーンは、電気自動車のスーパーカーに求められる独自の性能要件を満たすだけの設備が充分に整っていないとし、英国政府に対し、将来のパワートレイン技術への投資のための戦略的ロードマップを提供するよう求めています。彼の考える英国の自動車産業の未来を見てみましょう。
マクラーレンが英国政府に要望したこととは
高性能な自動車製造とモータースポーツの豊かな歴史を持つ英国は、国内のサプライチェーンに投資を呼び込むことができれば、電気自動車のスーパーカー生産をリードする絶好の機会になると、マクラーレン・オートモーティブのマイケル・ライターズCEOは語る。
ライターズ氏は、既存の英国のサプライチェーンは、電気自動車のスーパーカーに求められる独自の性能要件を満たすだけの設備が充分に整っていないとし、英国政府に対し、将来のパワートレイン技術への投資のための戦略的ロードマップを提供するよう求めている。
「国内サプライチェーンへの投資が主導する明確な産業戦略は、成長をもたらし、雇用を支援し、経済の脱炭素化を助け、英国のパフォーマンスカー産業の活気ある未来を約束する」
とライターズ氏は言う。さらに次のように続けた。
「未来の高性能車の開発を支える世界クラスの国内サプライチェーンに投資することで、私たちはこの分野への信頼を取り戻すことができる。英国はかつて世界最大の自動車輸出国だった。そして今日も、英国は世界で最も称賛される高性能車ブランドの本拠地であり、F1レーシングチームの大半の本拠地でもある。われわれは、英国のモータースポーツとパフォーマンスカー業界の技術、知識、創意工夫を活用し、世界的なハイパフォーマンス・センター・オブ・エクセレンスを創造しなければならない」
そしてこうも語る。
「英国を拠点とする高級車・スポーツカーブランドは、その豊かな歴史、本質的なブランド価値、クラスをリードする性能特性のおかげで、絶大な価格決定力を誇っている。その結果、マクラーレンの従業員の生産性総付加価値は、英国の自動車製造業全体の生産性総付加価値よりも51%高い。マクラーレンのスーパーカーの90%以上が輸出されており、英国のパフォーマンスカー産業は優れた投資回収率をもたらしている」
EUの「原産地規則」要件を満たすという課題
また、ライターズ氏は、電動化への移行を「リスク回避」するためにも政府の支援が不可欠だと語る。
「この技術シフトのコストは、とくに少量生産で専門性の高いメーカーにとっては天文学的な数字になる。現在、電動スーパーカーに対する顧客の需要は極めて低く、その理由は技術が現在のハイブリッド車や内燃エンジン車の性能に匹敵するほど十分に成熟していないからである。しかし、次世代の高出力密度バッテリーセル製造に投資し、英国が将来のパフォーマンスカー・パワートレイン技術の最前線に立てるようにするチャンスはある。この10年を通じて販売されるスーパーカーの大半を占めると予想されるハイブリッド車でさえ、輸出車に対するEUの“原産地規則”要件のため、高性能バッテリー技術を現地調達する必要がある」
さらに、純粋な電気自動車へのシフトに伴い、原産地規則要件を満たすという課題は増える一方だと言う。
「現在、ハイブリッド車のマクラーレン アルトゥーラのパワートレインは、64%が英国製だが、このクルマが純粋なEVであった場合、パワートレインの英国生産比率は13%にまで低下するだろう。なぜなら、現在、英国では関連部品を調達できないからだ」
国主導でバッテリーサプライヤーを英国に誘致する必要性
そして、ライターズ氏は、歴史的に技術革新で業界をリードしてきたのは高級車と高性能車市場だったと言う。
「マクラーレンP1を見てほしい。電動化が主流になるずっと前に、高性能ハイブリッド技術の能力を証明した技術的先駆者だ。純粋なEVのスーパーカーをマクラーレンが開発することで、今日のスーパーカーのパフォーマンスとドライバー・エンゲージメントに匹敵する、いや、凌駕することができる」
ライターズ氏は、適切なバッテリーサプライヤーを英国に誘致することは、パフォーマンスカー業界以外にも長期的な利益をもたらすだろうと言う。
「将来的には、最先端の高エネルギー密度セルに特化した英国のサプライチェーンが繁栄することで、スーパーカーの生産だけでなく、垂直離陸機やドローンなど、他の高度な製造ニーズもサポートできるだろう」
AMWノミカタ
今回、マクラーレン・オートモーティブのマイケル・ライターズCEOは英国内に電気自動車に関する国内のサプライチェーンを国主導で整備する必要性を語っている。2023年に英国政府は「英国のバッテリー戦略」を発表している。その中で、英国は、世界トップクラスの研究基盤を持ち、産業用電池に関する研究の質で英国は世界第3位にランクされていることや、電池産業が成功すれば2040年までにバッテリーセルの製造で6.5万人、サプライチェーンで3.5万人の合計10万人の雇用を生むと試算されていること、英国の電気自動車(EV)用バッテリー産業の企業価値は欧州で第2位であることが誇らしげに書かれている。
そして英国ではすでにタタ・グループが国内に40億ポンドでギガファクトリーを建設し、日産とAESCが新たに投資してバッテリーと電気自動車の製造ハブを設立したことなどもレポートされている。しかしライターズCEOのポイントはそこではないだろう。他国の企業の投資や通常の自動車用バッテリーの製造ではなく、英国のハイパフォーマンスブランドが求める超高性能バッテリーを自国の産業として創出することで、英国の高級自動車産業全体の価値を上げたいという考えなのではないだろうか。
また一方でこれこそが、どの自動車グループに属していないマクラーレンの生き残りに必要な条件なのかも知れない。