日・独スポーツカー復権への狼煙
兄弟車というと、似たような見た目なのかと思いきや、共通のプラットフォームから発生したクルマだということを知らないと、このクルマ同士が兄弟車だったの? と驚くクルマもあるかもしれません。AMWではいくつか兄弟車を紹介してきましたが、これまでは国内メーカーの同一社内の兄弟車を取り上げました。ところが今回は意外な2台。日本とドイツ、しかも自動車業界の雄であるトヨタとBMWという巨頭メーカーの共同開発で誕生した兄弟車です。その2台とは、ずばりトヨタ「スープラ」とBMW「Z4」。この兄弟車の真相に迫ります。
トヨタとBMWが手を組んだ
トヨタが誇るスポーツカーのフラッグシップとして、「スープラ」の新型90系が登場したのは、2019年2月だった。先代の4代目(A80型)が生産中止となった2002年8月から約17年もの歳月を経て、再び日本を代表すべきスポーツカー復活の狼煙を上げた。
それ以前、2011年12月からトヨタはドイツの雄、BMWグループと環境技術・戦略的協業の提携を結んできた。2014年1月の北米国際自動車ショー(デトロイト・モーターショー)にて、クーペ・デザイン・コンセプト「TOYOTA FT-1」を出展し、往年の名車・トヨタ「2000GT」を彷彿とさせるデザイン採用も注目を浴びた。2018年3月の第88回ジュネーブ国際モーターショーでは、「GR Supra Racing Concept」を世界初公開した。
日本国内は2019年2月の大阪オートメッセで、トヨタ・カスタマイジング&ディベロップメント(TRD)がコンセプトカー「GR SUPRA Performance Line CONCEPT」を初公開。同年5月、「Supra is Back.」のキャッチコピーを掲げ、令和で最初の新型車として正式デビューを果たす。そんなBMWとのスポーツカー共同開発を経て誕生した5代目(DB型・通称「A90」型)スープラは、兄弟車となる「Z4」(第3世代・G29型)とともに、新時代の日・独スポーツカー復権を目指した。
直列6気筒エンジンが両社を結びつけた
トヨタとBMWの共同開発は、スープラ歴代モデルの伝統である直列6気筒エンジン+後輪駆動=直6FR方式の車両パッケージを実現するためだった。技術提携した翌2012年の当時、その直6エンジンを製造していた世界唯一の自動車メーカーがBMWだった背景も大きな要因であった。
かたやBMWの血統を受け継ぐ「Z」シリーズは、オープン2シーターのロードスターとして根強い人気を誇っていた。往年の「Z1」(1989~1991年・E30型)に始まり、「Z3」(1995~2002年・E36/7型)、Z3の後継モデル「Z4」(第1世代2002~2008年・E85/86型、第2世代2009~2016年・E89型、第3世代2018~現在・G29型)、「Z8」(2000~2003年・E52型)まで、歴代の車種ラインアップを展開してきた。
スープラは初代(A40/50型)から続くロングノーズ・ショートデッキのパッケージ、FR方式・2ドアクーペを継承する。ボディ剛性・軽量化を両立するCFRP(カーボンファイバー)素材を用いながら、車両の乾燥重量が1410~1530kgという先代(A80型)とほぼ同数値を実現。新世代のスポーツカーとして、開発コストの低減・効率化も考慮し、ベース車両のエンジンやシャシーなどプラットフォームをBMW Z4の第3世代(G29型)と共有。その製造・工場に関してもZ4と同じく欧州製で、オーストリアの自動車製造会社マグナ・シュタイアが生産を受託した。
こうしてスープラの製造事業はBMWで、トヨタは輸入販売元として位置付けられる。そんな共同開発・生産・販売の経緯からスープラは、Z4の兄弟車として見られているわけだ。
とはいえ開発の初期段階でプラットフォームの共有を決定した後、両車は別々に開発が行われ味付けされた。トヨタの社内カンパニー・GAZOO Racing(ガズー・レーシング)、およびスポーツモデル専用ブランド・GR(ジーアール)を冠した商品名は「GRスープラ」だ。GRブランド初の専売車種で、GRシリーズ初のグローバルモデルとして話題となった。
兄弟車としての共通点と相違点
兄弟車とされるGRスープラとBMW Z4は、外装スタイルが異なるだけでなく性格も異なる。GRスープラはアグレッシブな外装デザインに、歴代モデル初の純2シーター化で究極の走りを追求し、確かな安全・走行性能を備えたニッポン先進のスポーツカー。対するBMW Z4は、エレガントな外装デザインにドイツ流の質実剛健、かつ上質で爽快な走りを楽しめるオープンカーだ。
両車のボディサイズは、全長4400mm以下/全幅1865mmとほぼ同じ。スープラのホイールベースは2470mmと(先代より-140mm/トヨタ「86」より-100mm)短く、直4エンジン仕様で前後重量配分比率50:50を実現し、スポーツカーとして小回りも利く。ドライバーの視界はフロント良好だが、サイドウインドウの下端が高く側方と斜め後方がやや見にくいとの見解もある。Z4はオープン時はもちろん、ソフトトップを閉じた状態でも真後ろが見やすいようだ。
内装の質感を見ると、両車ともBMW製らしい水平基調のデザインで、インパネ形状も似ている。スープラのATレバー形状はZ4とほぼ同じく、ウインカー操作レバーも左側に装備する。Z4の質感が比較的より高く、伝統のプレミアム・ブランドらしさを感じる。
搭載するエンジンは両車とも、直列4気筒2Lターボと直列6気筒3Lターボを選べる。ともに直4モデルは最高出力197ps/最大トルク320Nm、直6モデルは340ps/500Nm。2023年モデル以降のスープラは、6気筒の「RZ」のみ6速MTが選択可能で、直6・3Lターボエンジンのレスポンス感覚もより鋭く、高い動力性能を発揮する。
走りの魅力か、上質な爽快感か、どちらが好み?
肝心な走行安定性に関して、スープラはアクティブ・ディファレンシャルを装備し、特にコーナリング時の安定感が向上している。Z4のMスポーツ・ディファレンシャルも、同様の機能を持ち安定した走りを楽しめる。両車とも短いホイールベースが走りに貢献し、機敏で曲がりやすいハンドリング特性を併せ持つ。
兄弟2台の総合的な評価は、操るドライバーの好みにも左右されるだろう。スポーツカーとして走りの魅力はスープラが勝り、オープンカーならではの上質な爽快感ならZ4が優れる……と言えそうだ。いずれにしても魅力的な最終評価は、実際に乗り比べてみてから判断してほしい。